神経眼科

[No.3589] 上斜筋ミオキミア(superior oblique myokimia)に対するオフラベル治療としてのβ遮断薬点眼

上斜筋ミオキミア(Superior Oblique Myokymia, SOM)は、眼球の微細な不随意運動を引き起こす稀な神経眼科疾患です。本記事では、SOMの症状、原因、対処法に加え、ベータ遮断薬点眼液(ベータブロッカー)の使用経緯とその効果について解説します。特に、従来使用されていたベトプチックの国内販売停止に伴い、チモプティック点眼液が代替として使用されるようになった背景についても触れます。


上斜筋ミオキミアとは?

SOMは、上斜筋の異常な活動により、片眼性の微細な眼球運動(ミオキミア)を引き起こす疾患です。患者は、視界が揺れるような感覚(オシロプシア)や、特定の視線方向での不快感を訴えることがあります。発作は数秒から数分程度で、日中に繰り返し発生することが特徴です。自由が丘清澤眼科


原因と病態

SOMの正確な原因は明らかではありませんが、滑車神経(第IV脳神経)の微小血管による圧迫や、神経の脱髄が関与していると考えられています。これにより、上斜筋の異常な興奮が生じ、ミオキミアが発生します。


対処法と治療選択肢

SOMは自然軽快することもありますが、症状が持続する場合や日常生活に支障をきたす場合には治療が検討されます。治療法としては、抗てんかん薬やベータ遮断薬の内服、さらには外科的な神経減圧術が挙げられます。しかし、これらの治療法には副作用や侵襲性の問題があり、慎重な適応判断が必要です。


ベータ遮断薬点眼液の使用経緯と効果

近年、ベータ遮断薬点眼液の局所投与がSOMに有効であるとの報告が増えています。特に、埼玉医科大学眼科による症例報告では、ベータ遮断薬点眼がSOMの症状緩和に奏効した例が紹介されていますこの治療法は、全身性の副作用を最小限に抑えつつ、局所的に症状を改善する可能性があるため、注目されています。


ベトプチックからチモプティックへの移行

従来、選択的β₁遮断薬であるベトプチック(一般名:ベタキソロール)がSOMの治療に使用されてきました。ベトプチックは、全身性の副作用が少ないことから、喘息などの呼吸器疾患を有する患者にも比較的安全に使用できるとされていました。しかし、ベトプチックの国内販売が停止されたことにより、代替薬として非選択的β遮断薬であるチモプティック(一般名:チモロール)が使用されるようになりました。チモロールは、全身性の副作用(徐脈、気管支攣縮など)のリスクがあるため、使用には慎重な判断が求められます。


まとめ

上斜筋ミオキミアは稀な疾患でありながら、患者にとっては日常生活に支障をきたすことがあります。ベータ遮断薬点眼液の使用は、非侵襲的かつ局所的な治療法として有望ですが、薬剤の選択には副作用のリスクを考慮する必要があります。特に、ベトプチックの販売停止に伴い、チモプティックへの移行が進んでいますが、患者の全身状態を十分に評価した上での使用が求められます。


参考文献

  • 花房彩、山田教弘、篠田啓、石川弘. β遮断薬点眼が奏効した上斜筋ミオキミアの一例. 日本の眼科. 2019;90(2):145-147.J-GLOBAL

  • 眼瞼ミオキミア(lid myokymia)に対するβ遮断薬点眼のオフラベル使用に関する英文文献を以下にご紹介します。これらの文献は、主にチモロール(timolol)の使用例を中心に報告されています。

🔍 1. Topical Timolol in the Treatment of Monocular Oscillopsia Secondary to Superior Oblique Myokymia

  • 概要: この症例報告では、上斜筋ミオキミア(Superior Oblique Myokymia)による片眼性のオシロプシアに対して、チモロール0.5%点眼が有効であったことが述べられています。
  • 引用: Borgman CJ. “Topical timolol in the treatment of monocular oscillopsia secondary to superior oblique myokymia: a review.” J Optom. 2014;7(1):68–74.PMC+6utaheyedoc.org+6Lippincott+6

✅ まとめ

  • 使用されるβ遮断薬点眼: 主にチモロール(timolol)が報告されています。
  • 作用機序の仮説: 筋膜終板での膜安定化作用や局所的な神経伝導の抑制が考えられています。
  • 使用上の注意: 全身性の副作用(徐脈、気管支攣縮など)に注意が必要であり、喘息や心疾患のある患者には慎重な適応が求められます。
  • エビデンスレベル: 症例報告や小規模なケースシリーズが中心であり、大規模な臨床試験は存在しません。

上斜筋ミオキミアに対するβ遮断薬点眼の使用は、主に難治性や患者の希望がある場合に限られます。使用を検討する際は、オフラベル使用であることを患者に説明し、慎重な適応が求められます。

メルマガ登録
 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

最近の記事

  1. 近視予防に新たな選択肢?多様なセグメント焦点ぼけ最適化レンズ(DSDO)の有効性を検証:最新論文

  2. 高円寺の裏町に咲く赤い花 ― 夏を彩るマンデビラの魅力

  3. 都会の路地に咲く「忘れ草」——カンゾウという植物と漢方での役割