神経眼科

[No.3762] 「影響の大きい慢性疼痛に対する遠隔医療およびオンライン認知行動療法に基づく治療」新論文紹介;

「影響の大きい慢性疼痛に対する遠隔医療およびオンライン認知行動療法に基づく治療」新論文紹介;

遠隔医療で慢性疼痛は改善できるか?~オンラインCBT治療の新しい可能性~

はじめに
慢性疼痛、それも日常生活や仕事に支障を来す「影響の大きい慢性疼痛」は、米国成人の約8.5%に影響を及ぼすとされています。特に農村部では、疼痛の苦しみに加え、うつ状態、生活機能の障害、そして医療へのアクセスの困難さが重なり、問題はより深刻です。

痛み止めなどの薬物治療に頼るだけでなく、認知行動療法(CBT)という心の働きかけによる非薬物療法が有効であることは知られています。しかし、このCBTを受けるには訓練された治療者の数が限られており、特に都市部に集中しているという課題がありました。

近年、遠隔医療やオンラインプログラムの発展により、自宅からでもこうした治療が受けられる環境が整いつつあります。COVID-19パンデミック以降、慢性疾患への遠隔対応の重要性が一層高まる中、RESOLVE試験」と名付けられた今回の研究は、こうした時代の流れを反映した注目のランダム化臨床試験です。

研究の目的と方法
この研究では、長引く慢性筋骨格系疼痛に悩む患者2,331人を対象に、以下の3つのグループに無作為に分けました:

  1. 電話・ビデオによるヘルスコーチ主導のCBT治療(8回)
  2. オンラインで自分で取り組むCBTプログラム(painTRAINER
  3. 通常の医療と情報提供のみ

主な評価指標は、3か月後に「痛みの強さが30%以上改善」したかどうかという点です。また、6か月と12か月後の効果も追跡されました。

結果のポイント
試験完了率は高く(94.8%)、年齢平均は約59歳、女性が74%を占め、4割以上が医療過疎地域の住民でした。

3か月後に痛みが30%以上改善した人の割合は以下の通りです:

  • ヘルスコーチ主導:32.0%
  • オンライン自己学習:26.6%
  • 通常のケア:20.8%

いずれの遠隔CBTグループも、通常の医療だけを受けた人より明らかに改善していました。中でも、電話やビデオを使ったヘルスコーチ付きの治療が最も効果的でした。この差は12か月後も維持されていました。

研究の意義と今後の展望
この研究は、対面診療に頼らず、遠隔で実施可能なCBT-CP(慢性疼痛向け認知行動療法)によって、薬を使わずに患者の痛みとQOL(生活の質)を改善できる可能性を示しました。

特に医療資源が限られる地域や、通院が難しい高齢者にとって、オンライン治療や電話での支援が有効な選択肢となることが明らかになった点は大きな前進です。

眼科診療でも、慢性疼痛やストレスが背景にある眼精疲労、視覚過敏、片頭痛といった症状に対し、身体だけでなく心のケアを組み合わせる重要性が改めて感じられます。

参考文献
DeBar LL, Mayhew M, Wellman RD, et al. Telehealth and Online Cognitive Behavioral Therapy–Based Treatments for High-Impact Chronic Pain: A Randomized Clinical Trial. JAMA. Published online July 23, 2025. doi:10.1001/jama.2025.11178

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