神経眼科

[No.3769] パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)は、同類の病気?

α-シヌクレイノパチーとは何か?―順天堂大学・奥住文美准教授らによる革新的研究から

① 導入:α-シヌクレイノパチーとは

パーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)、多系統萎縮症(MSA)は、いずれも中枢神経系がゆっくりと障害されていく神経変性疾患です。これらの疾患は、いずれもα-シヌクレイン(α‑synuclein)というタンパク質が異常に折りたたまれ、凝集して沈着することを共通の特徴としています。このような病態を持つ疾患群は、近年「α-シヌクレイノパチー(α-synucleinopathy)」と総称されるようになっています。

α-シヌクレインが神経細胞内で蓄積することでレビー小体が形成され、運動障害や認知障害、さらには自律神経症状が現れてきます。しかし、これらの疾患を早期かつ正確に診断するための血液マーカーは、これまで存在しませんでした

② 最新研究:IP/RT-QuIC法による革新

この課題に対して、順天堂大学神経内科学講座の奥住文美准教授らの研究グループは、血液中に存在する微量な病的α-シヌクレイン(シード)を高感度に検出できる新技術「IP/RT-QuIC法」を開発しました。

この方法では、まず血清中のα-シヌクレインを免疫沈降(IP)で濃縮し、その後リアルタイムの凝集増幅法(RT-QuIC)により、病的シードの存在を鋭敏に検出します。

この手法を用いて、パーキンソン病やレビー小体型認知症、MSAといった各疾患に特有の「シード構造」を判別することが可能になりました。実際、パーキンソン病と健常者の血清を識別する性能はAUC 0.96という極めて高い値を示し、MSAと区別する際にも有望な結果が得られました。

さらに電子顕微鏡で観察されたシードの形状には疾患ごとの特徴があり、パーキンソン病では「ペア状フィラメント」型、MSAでは「ねじれ型フィラメント」が確認されました。このことは、将来、疾患を形態レベルで分類できる可能性を示しています。

③ 眼科との接点:視覚症状を通じた気づき

α-シヌクレイノパチー疾患群は、眼科診療とも無関係ではありません。たとえば、

  • レビー小体型認知症では、視覚的な幻視(人影、虫、光のちらつきなど)が早期に現れることがあります。眼底や脳画像で明らかな原因が見つからない場合、中枢由来の症状を疑う視点が重要です。

  • パーキンソン病では、まばたきの減少、ドライアイ、眼球運動障害、調節障害などがみられることがあります。これらは進行により神経制御に影響が及ぶためと考えられます。

  • MSAでは自律神経障害が強く、瞳孔反応の異常や起立時の視界不良(一過性の霞視)などが報告されており、眼科での初期対応の中にヒントが隠れていることも少なくありません。

眼科医がこうした初期症状に気づき、適切に神経内科へと橋渡しすることが、患者さんの早期診断・治療へとつながります。

④ 今後の展望:血液検査がもたらす新たな診療のかたち

今回の研究成果により、血液1滴から神経変性疾患を高感度に診断できる時代が近づいています。眼科医にとっても、視覚症状をきっかけに患者さんを見つけ出すことが重要な役割となるでしょう。今後はこのアッセイを利用した臨床応用や、疾患進行のモニタリングへの展開も期待されます。


引用文献

Okuzumi A, Uemura N, Morimoto D, et al. Propagative α-synuclein seeds as serum biomarkers for synucleinopathies. Nature Medicine. Published online 2023. doi: 10.1038/s41591-023-02358-9

奥住文美;医学研究賞受賞:α-シヌクレイノパシー TMA vol78, no6, 432-434

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