血液検査と脳画像でわかる? ― アルツハイマー病の早期発見研究
アルツハイマー病研究の新しい挑戦
清澤のコメント:PET 研究の初期にわたくしも参加したアルツハイマー病のPET 診断の研究はこのところ多くの追加論文が出てきており、概要もだいぶん変わってきているようです。本日はJAMA神経学の論文。
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アルツハイマー病は、物忘れや判断力の低下が進んでいく認知症の代表的な病気です。いま、世界中で「病気の進行を根本から遅らせる治療薬(疾患修飾療法)」の開発が急ピッチで進められています。
研究者が特に注目しているのが、血液や脳画像で病気の変化を“見える化”できるマーカーです。これにより、「薬で脳の変化が止まったか?」「症状の進行が本当に遅くなったか?」を同時に確かめられる可能性があります。
研究の目的
今回紹介する論文では、
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血液で測定できる「リン酸化タウ217(p-tau217)」
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PET検査で脳内にたまる「タウタンパク質の蓄積」
この2つのマーカーが、アルツハイマー病のごく早い段階(まだ症状が出ていない時期)に、病気の進行や治療効果をどこまで正確に示せるのかを調べました。
どんな方法で調べたのか
研究はアメリカ、カナダ、オーストラリア、日本の67施設で行われた大規模試験「A4試験」と、その関連研究「LEARN試験」に基づいています。
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参加者数:1707名(65~85歳、平均71歳)
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特徴:全員、認知症の症状はなく、アミロイドPET検査で脳にアミロイドβがあるかどうかを確認
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測定:血液検査でのp-tau217、タウPET、そして認知機能テスト(PACC)
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期間:平均で3年間追跡し、変化の関係を調べました。
わかったこと
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タウPETの結果
前頭部や頭頂部のタウ蓄積が進むほど、同じ時期に認知機能の低下が強く表れていました。つまり、PETは「リアルタイムに進行を追える」ことが確認されました。 -
血液p-tau217の結果
アミロイド陽性の人では数年のうちに上昇しましたが、そのスピードは後半で鈍化しました。認知機能との関連はPETほど強くありませんでしたが、大規模データでは「ゆるやかに並行して変化する」ことが確認されました。
考察 ― 何が役立つのか?
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PETは病気の進行を追うのに最適
認知機能の低下とほぼ同時にタウの増加が見えるので、薬の効果を“その場で”確かめられる有力な手段です。 -
血液検査はスクリーニングに有望
症状が出る前から変化をとらえるので、「誰を臨床試験に参加させるか」を効率的に決めるのに役立ちます。 -
組み合わせの未来
今後の治療試験では「血液で候補者を選び、PETで詳しく追跡する」という組み合わせが現実的な戦略になるでしょう。
まとめ
この研究から、アルツハイマー病の早期診断と治療効果判定において、PET検査は“今の進行”を追うのに強力、血液検査は“将来リスクを見抜く”のに便利、という役割分担が見えてきました。
将来的には、血液検査で簡単に危険性をチェックし、必要な人だけがPETで詳しく調べる、といった流れが一般診療にも取り入れられるかもしれません。
出典
Insel PS, Mattsson-Carlgren N, Langford O, et al.
Concurrent Changes in Plasma Phosphorylated Tau 217, Tau PET, and Cognition in Preclinical Alzheimer Disease.
JAMA Neurology. Published online August 25, 2025.
doi: 10.1001/jamaneurol.2025.2974
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