神経眼科

[No.3919] ADHD治療薬(覚醒剤)と精神病・双極性障害の発生リスクについて

ADHD治療薬(覚醒剤)と精神病・双極性障害の発生リスクについて

研究の背景

注意欠陥・多動性障害(ADHD)は、集中力の持続が難しい、不注意や多動性、衝動性を特徴とする神経発達症です。治療では薬物療法が重要で、多くの国際ガイドラインで覚醒剤(メチルフェニデートやアンフェタミン製剤)が第一選択とされています。しかし、これらの薬には副作用があり、中でも「精神病症状」や「躁病(双極性障害)」といった深刻な問題が起こりうることが知られています。ただし、どの程度の頻度で起きるのか、薬の種類によってリスクが異なるのかは十分に分かっていませんでした。

研究の目的

この研究は、覚醒剤で治療されたADHD患者における精神病や双極性障害の発生率を明らかにすること、そして薬の種類や患者背景によるリスクの違いを検討することを目的としています。

方法

  • 研究デザイン:システマティックレビューとメタアナリシス

  • 対象:ADHD患者を対象とした16件の研究(合計39万人超)

  • 評価:精神病症状、精神病性障害、双極性障害の発生率

  • 解析:ランダム効果モデルを用いた統合解析、サブグループ分析、メタ回帰

結果

  • 精神病症状は 2.76%、精神病性障害は 2.29%、双極性障害は 3.72% の患者で発生。

  • アンフェタミン系薬剤を使った場合、メチルフェニデートよりも精神病発生リスクが高い(オッズ比1.57)。

  • 北米の研究や追跡期間の長い研究では、精神病の発生率が高かった。

  • 女性が多い集団、サンプルサイズの小さい研究、用量が高いケースではリスク上昇がみられた。

結論

覚醒剤で治療されたADHD患者では、精神病や双極性障害のリスクが「無視できない」ことが確認されました。特にアンフェタミン系はリスクが高めです。現時点の研究は因果関係を断定できませんが、臨床医は覚醒剤治療を始める際にこうしたリスクを患者と共有し、治療中は症状を体系的にモニタリングすることが重要です。


出典

Salazar de Pablo G, Aymerich C, Chart-Pascual JP, et al.

Occurrence of Psychosis and Bipolar Disorder in Individuals With Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder Treated With Stimulants: A Systematic Review and Meta-Analysis.

JAMA Psychiatry. Online First, September 3, 2025.

doi:10.1001/jamapsychiatry.2025.2311


清澤のコメント

私の外来では、かつて向精神薬や安定剤に関連する眼瞼痙攣を多く見ましたが、最近は少なくなっています。精神科領域ではADHDの薬物治療が広く行われていますが、この研究は「有効である一方、決して副作用がゼロではない」という現実を示しています。眼科の診療でも、患者さんが精神科や小児科で処方されている薬剤の影響を念頭に置くことが大切です。

注;文中の用語を解説します。

  • 精神病症状:幻覚や妄想など、現実と区別がつかなくなる一時的な症状。

  • 精神病性障害:精神病症状が続き、生活に大きな支障をきたす病気。

  • 双極性障害:気分が高揚する「躁」と落ち込む「うつ」が繰り返し起こる病気。

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