神経眼科

[No.4299] 体の健康は「いつやるか」で決まる ― 光・睡眠・食事・運動と概日リズムのお話 ―

体の健康は「いつやるか」で決まる

― 光・睡眠・食事・運動と概日リズムのお話 ―

私たちの体には「体内時計」があります。これは**概日リズム(がいじつリズム)**と呼ばれ、約24時間周期で、睡眠、ホルモン分泌、体温、血圧、血糖値などを調整しています。最近、この概日リズムの乱れが、心臓病や糖尿病、肥満などの“心血管代謝疾患”のリスクを高めることが、科学的に明確になってきました。

2025年、アメリカ心臓協会(AHA)は、概日リズムの健康が心臓と代謝の病気に深く関係するという、初めての公式な科学声明を発表しました。JAMAに掲載された解説記事では、その要点が「タイミングがすべて」という言葉でまとめられています。

何が問題になるのでしょうか

これまで私たちは、「何をするか」に注目してきました。

しかし今回の声明が強調しているのは、「いつするか」も同じくらい重要だという点です。

たとえば

・夜遅くまで強い光(スマートフォンや照明)を浴びる

・寝る時間や起きる時間が日によって大きく違う

・夜遅くに食事をとる

・昼夜逆転の生活を続ける

こうした生活は体内時計を乱し、血糖値や脂質の調整、血圧、炎症反応に悪影響を及ぼすことが分かってきました。

実は「新しい話」ではありません

この考え方は、最先端の科学で裏付けられたものですが、実はとても懐かしい発想でもあります。

多くの文化では昔から

・日の出とともに起きる

・決まった時間に食事をとる

・昼は活動し、夜は休む

・季節に合わせて生活を変える

といった暮らしが自然に行われてきました。

日本、中国、インド、東南アジア、アフリカ、ラテンアメリカなど、地域は違っても共通しているのは、自然のリズムに合わせて生きるという知恵です。

当時は「概日リズム」などという言葉はありませんでしたが、体は環境と調和しているときに最もよく働くことを、経験的に知っていたのでしょう。

現代科学が追いついてきた

今回のAHA声明は、こうした生活習慣が

・血糖コントロール

・脂質代謝

・血管の働き

・全身の炎症

に良い影響を与えることを、数多くの研究で示しています。

つまり、昔から大切にされてきた生活リズムが、現代医学でも正しいと証明されつつあるのです。

眼科医の立場から一言

目の健康も、この体内リズムと無関係ではありません。

夜遅くまでのスマートフォン使用は、睡眠の質の低下だけでなく、ドライアイ、眼精疲労、光過敏にも影響します。

また、規則正しい睡眠と朝の光は、自律神経の安定を通じて、全身の健康を支えます。

今日からできる小さな工夫

難しいことをする必要はありません。

・朝はできるだけ太陽の光を浴びる

・寝る時間と起きる時間をそろえる

・夜遅い食事を避ける

・夜は照明を少し暗めにする

これだけでも、体内時計は整いやすくなります。

おわりに

今回のJAMAの記事は、最先端の科学が、私たちの祖先の知恵と静かにつながった瞬間を示しています。

健康とは、特別な治療だけで得られるものではなく、毎日の「時間の使い方」から育まれるものなのかもしれません。

忙しい現代だからこそ、少し立ち止まり、体のリズムに耳を傾けてみてはいかがでしょうか。


※出典

Schweitzer K. Circadian Rhythm Health and Cardiometabolic Disease—Light, Sleep, Meals, and Activity Timing.

JAMA. 2025;334(23):2055-2057. doi:10.1001/jama.2025.22365

メルマガ登録
 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

最近の記事

  1. 体の健康は「いつやるか」で決まる ― 光・睡眠・食事・運動と概日リズムのお話 ―

  2. 第64回LIMEセミナー: 告知

  3. 2025年の自由が丘清澤眼科医院・10の出来事 ― 患者さんとともに歩んだ一年 ―