神経眼科

[No.4446] 放射線視神経症(Radiation Optic Neuropathy:RON)をどう理解し、どう対応するか

放射線視神経症(Radiation Optic Neuropathy:RON)をどう理解し、どう対応するか

放射線治療後に視力低下を来す疾患として、**放射線視神経症(radiation optic neuropathy:RON)**は決して頻度の高い合併症ではありませんが、一度発症すると治療が難しく、眼科医として知っておくべき重要な病態です。特に下垂体腫瘍、頭蓋底腫瘍、鼻副鼻腔腫瘍などに対する放射線治療後の患者を診察する際には、常に念頭に置く必要があります。


1.どの程度の放射線量で、どのくらいの期間で発症するか

RONは、視神経または視交叉が放射線照射野に含まれた場合に起こります。一般にリスクが高まるのは、

  • 単回照射換算で50~55 Gy以上

  • 分割照射であっても視神経・視交叉の耐容線量を超える場合

とされています。

発症時期は比較的特徴的で、

**照射後3か月~3年以内(多くは6~18か月)**に、突然あるいは亜急性に視力低下が出現します。数日~数週間で急速に悪化することもあり、患者は「ある日突然見えなくなった」と訴えることが少なくありません。


2.病態の本体は何か ― 炎症ではなく血管障害

RONの本体は、**放射線による視神経の微小血管障害(radiation-induced vasculopathy)**です。

放射線により、

  • 毛細血管内皮障害

  • 血管閉塞、虚血

  • 二次的な軸索障害・脱髄

が生じ、結果として虚血性視神経障害に近い病態が形成されます。

重要な点は、主病態は炎症ではないということです。このため、後述するようにステロイド治療の効果は限定的になります。


3.臨床像の特徴

典型例では、

  • 片眼または両眼の急激な視力低下

  • 中心暗点、びまん性視野障害

  • 視野は前部虚血性視神経症(NAION)に似るが、若年~中年でも起こる

初期には眼底所見が乏しいこともありますが、進行すると、

  • 視神経乳頭浮腫(急性期)

  • その後、視神経萎縮

へと移行します。


4.画像診断での特徴 ― MRIは重要な補助診断

診断に最も有用なのは**MRI(特に造影MRI)**です。

  • T2強調像:視神経の高信号

  • ガドリニウム造影

    視神経や視交叉が造影増強(エンハンス)されることが多い

この造影効果は、炎症そのものというよりも、血管透過性亢進・血液神経関門破綻を反映すると考えられています。

ただし注意点として、

  • 視神経炎

  • 腫瘍浸潤

  • 再発腫瘍

との鑑別が重要であり、照射歴と発症時期の一致が診断の決め手になります。


5.治療と対応 ―「治りにくい」ことを前提に

残念ながら、RONは確立した有効治療がありません

  • ステロイド大量療法

    → 一時的な改善報告はあるが、エビデンスは乏しい

  • 抗凝固療法・抗血小板療法

    → 明確な有効性は証明されていない

  • 高圧酸素療法

    → 早期介入で部分改善例の報告あり(症例ベース)

現実的な対応として重要なのは、

  1. 早期認識・早期紹介

  2. 神経放射線科・脳外科との情報共有

  3. 視機能予後についての十分な説明

です。発症後の視力回復は困難であることが多く、予防と早期発見が最も重要な疾患といえます。


6.眼科医としての実践的メッセージ

放射線治療歴のある患者で、

  • 急激な視力低下

  • 眼底所見が乏しい視神経障害

を見たときには、必ずRONを鑑別に挙げるべきです。

「放射線後は何年も経っているから関係ない」と考えるのは危険です。

RONは、眼科医が放射線治療の影の部分を引き受ける疾患とも言えます。治せない疾患であっても、正確に診断し、適切に説明し、次につなぐことが、われわれの重要な役割です。

メルマガ登録
 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

最近の記事

  1. 退職代行「モームリ」経営者逮捕が示したもの

  2. 放射線視神経症(Radiation Optic Neuropathy:RON)をどう理解し、どう対応するか

  3. 視野の「1.5盲」――前部視交叉症候群(anterior chiasmal syndrome)における junctional scotoma をどう伝えるか