若者を中心に増えている「笑気ガス(亜酸化窒素)」乱用の危険性
― 神経障害だけでなく「視力・視野」にも影響する可能性 ―
近年、10代後半から若年成人を中心に、笑気ガス(亜酸化窒素)の乱用が世界的に増加しています。2026年2月に米国医学会雑誌JAMAに掲載された一般向け解説記事では、短時間の多幸感と引き換えに生じうる、深刻な健康被害について注意喚起がなされています。
笑気ガスとは何か
笑気ガスは、医療や歯科で麻酔・鎮痛に用いられる無色・無臭のガスです。一方で、ホイップクリーム用カートリッジなど食品用途として市販されている製品にも使われており、比較的簡単に入手できることが問題となっています。風船に充填して吸入すると、30秒から2分ほどの高揚感や幻覚様の感覚が得られます。
急性期に起こる危険
カートリッジから噴出するガスは極めて低温(−40℃以下)で、直接吸入すると口や喉、肺の凍傷を起こすことがあります。また、肺がしぼむ「気胸」、高濃度吸入によるけいれん、意識障害、急性精神症状、まれに死亡といった重篤な事故も報告されています。
長期乱用による神経障害
より深刻なのは長期使用による影響です。笑気ガスはビタミンB12の働きを阻害し、赤血球の形成や神経の修復が妨げられます。その結果、
・貧血
・手足のしびれ
・歩行のふらつき
・筋力低下
・重症例では麻痺
などが生じ、神経障害が後遺症として残ることもあります。精神面でも、幻覚、妄想、不安、抑うつが続く例が知られています。
【眼科的観点からの重要な補足】
眼科医の立場から特に注意したいのは、視神経や中枢神経への影響です。ビタミンB12欠乏は、脊髄だけでなく視神経にも障害を起こすことがあり、「視神経症(視神経障害)」の原因になり得ます。
具体的には、
-
視力低下
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色が分かりにくくなる(色覚異常)
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視野が狭くなる、中心が見えにくい
といった症状が、眼底検査で目立った異常がなくても進行することがあります。これは、視神経そのものの機能が障害されるためで、気づいた時には回復が不十分な場合もあります。
若年者の「原因不明の両眼性視力低下」や「視野異常」を診察する際、笑気ガス乱用歴の確認が重要になるケースも今後増えると考えられます。
治療と予防
治療の基本は使用の即時中止と、高用量ビタミンB12補充です。神経症状が残る場合はリハビリテーション、依存が疑われる場合は専門的カウンセリングが必要です。
何より重要なのは、「合法的に手に入る=安全ではない」という正しい理解を社会全体で共有することです。
原典(英語)
Raciti CD, Ehlers PF, LeSaint KT.
Nitrous Oxide Misuse.
JAMA. Published Online February 5, 2026.
doi: 10.1001/jama.2025.25223



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