神経眼科

[No.4458] ケニアの医療従事者に広がるうつ症状 ― 職場環境と人生背景が及ぼす影響

ケニアの医療従事者に広がるうつ症状 ― 職場環境と人生背景が及ぼす影響

ケニアの医療従事者を対象に行われた研究から、医療の現場で働く人々が抱えるメンタルヘルスの深刻さが明らかになりました。医療従事者の心の健康は世界的な課題ですが、とくにケニアのような低・中所得国では、人手不足や社会的格差、医療資源の制限といった独自のストレス要因が重なり、うつ症状のリスクが高まると考えられています。しかし、これまでこの集団におけるうつ症状の実態や、その背景要因については十分に検討されてきませんでした。

本研究は、ケニア・ナイロビ市内の5つの病院で働く医療従事者を対象に、うつ症状の有病率と、それに関連する個人的・職場的要因を明らかにすることを目的として行われました。2023年4月から開始された縦断研究において、参加者は登録時から12か月間、3か月ごとにアンケートに回答しました。うつ症状の評価には、国際的に広く用いられているPHQ-9という質問票が使われ、あわせて年齢や職種、家族・人間関係の状況、性格傾向、幼少期の家庭環境、勤務状況、職場での差別経験、強いストレスを伴う人生の出来事などが調査されました。

登録時に有効な回答が得られた514人の医療従事者のうち、調査期間中に一度でもPHQ-9で「大うつ病」に相当する基準を満たした人は43.1%にのぼりました。その中には、中等度以上のうつ症状を示す人が約17%、重度に該当する人も約5%含まれていました。この割合は、ヨーロッパや北米の医療従事者、さらには一般的なケニア人口で報告されている数値を大きく上回るものです。

詳しい解析の結果、うつ症状と強く関連していたのは、神経症傾向が高いこと、幼少期に困難な家庭環境を経験していること、安定したパートナー関係がないこと、強いストレスを伴う人生の出来事を経験していること、そして職場で差別を受けた経験があることでした。一方で、労働時間の長さや医療ミスの経験は、米国などでの先行研究とは異なり、統計学的に明確な関連は示しませんでした。

この研究から、ケニアの医療従事者では非常に高い割合でうつ症状がみられ、その背景には個人の性格や生育歴といった要因だけでなく、職場における差別や社会的ストレスといった環境要因が深く関与していることが示されました。著者らは、低・中所得国における医療従事者のメンタルヘルス対策として、個人への支援にとどまらず、文化的背景や職場環境を踏まえた包括的な介入が必要であると結論づけています。

出典:Aballa A, Mwigerele DG, Zhuo Z, et al. Depressive Symptoms and Associated Factors Among Health Care Workers in Kenya. JAMA Psychiatry. 2026;83(2):216-218. doi:10.1001/jamapsychiatry.2025.3727

眼科医・清澤のコメント:日本でも医療現場の疲弊は大きな問題ですが、本研究は「誰が弱いか」ではなく「どのような環境で働いているか」が心の健康を左右することを強く示しています。医療の質を守るためにも、医療者自身が守られる仕組みづくりが欠かせないと感じます。

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