代表的な視神経疾患に対する診断と治療の概要:
視神経は目で捉えた光の情報を脳に伝える太い神経の束ですが、これが障害されると急に見え方が悪くなり、日常生活に大きな影響が生じます。以前は急性の視神経の炎症をひとまとめに「視神経炎」と呼ぶことが多かったのですが、近年の研究で、原因や治療法が異なる複数の病態が明らかになり、それぞれを区別して診療する必要性が高まっています。
まず従来型としてよく知られているのが多発性硬化症(MS)に関連した視神経炎で、これは特に若い成人女性に多く、急に片眼の視力が低下し、眼を動かしたときに痛みを感じることが特徴です。視野検査で中心部の見え方が悪くなる中心暗点が見られ、頭部・眼球MRIで視神経および脳に脱髄と呼ばれる病変が認められることがあります。治療は急性期にステロイドの大量点滴療法を行い、その後MSと診断されれば再発予防のための疾患修飾薬が検討されます。
次に近年特に注目されているのが血液中の自己抗体が関与するタイプで、特に視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)とMOG抗体関連疾患(MOGAD)です。NMOSDではアクアポリン4抗体が陽性となることが多く、視力低下が重度であることや両眼性・再発性が比較的多い点が特徴で、MRIでも視神経後方まで病変が長く伸びることがあります。治療としては急性期にステロイド点滴に加え、血漿交換療法が検討されることがあり、再発予防には一般的なMS治療薬とは異なる免疫抑制療法や生物学的製剤が使用されます。NMOSDはMSとは治療法が異なるため、抗体検査を含めた鑑別が極めて重要です。
MOG抗体関連疾患は、ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク(MOG)に対する抗体が関与する疾患で、NMOSDとは抗体の対象が異なります。MOG抗体陽性の場合、視神経乳頭周囲の腫れが比較的目立つことや両眼性の発症が見られることがあり、急性期にはステロイドパルス療法が有効であることが多いものの、ステロイドを早期に減量すると再発しやすい傾向があります。そのため再発が繰り返される場合には長期の免疫抑制治療を検討します。MOGADはNMOSDと比較すると経過中の視力予後が比較的良好であるとの報告もあります。
もう一つ視神経炎と区別して理解すべき病気に、遺伝性の視神経疾患であるレーベル遺伝性視神経症があります。これは炎症ではなくミトコンドリアという細胞内小器官の遺伝子(mtDNA)の変異によって視神経細胞のエネルギー産生が障害される病気で、特に20代前後の男性に多く見られます。発症は通常片眼から始まり数週間から数か月の間に両眼へ進行し、痛みはほとんどありません。家族歴があることが多く、確定診断には遺伝子検査が必須です。代表的な変異は11778、14484、3460の3つで、これらを合わせて大多数のケースに認められています。LHONは炎症性の視神経炎とは異なる病態であり、かつてイデベノンという薬がその治療として海外で用いられた経緯があるものの、日本国内では承認薬としての販売や保険適用はなく、標準治療として一般臨床で広く使われているものではありません。したがって本稿では記載を割愛します。
その他、視神経に障害を与える疾患としては感染や外傷、腫瘍、血管障害によるものもあり、これらは問診・臨床検査・画像検査によりそれぞれの特徴を見極める必要があります。例えば感染性であれば発熱や全身症状を伴うことがあり、MRIや血液検査で異常が検出され、抗生物質や抗ウイルス薬が必要となることがあります。
まとめると、急な視力低下を来す視神経疾患にはいくつかの主要な病態があり、多発性硬化症関連視神経炎では眼痛を伴いステロイド治療が中心となること、NMOSDでは抗アクアポリン4抗体の存在や重い視力低下・再発を示唆する所見を見逃さずに免疫抑制療法を行うこと、MOG抗体関連疾患ではMOG抗体陽性を確認してステロイドを中心とした治療計画を立てること、そして遺伝性のLHONでは遺伝子変異に基づいた診断が重要であることがポイントです。視力低下が急に起こった場合には「様子を見る」のではなく迅速に眼科・神経内科専門医に相談し、必要な検査を行うことが視機能予後を改善する第一歩となります。



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