清澤の聴講印象録:第38回甲状腺眼症研究会演題1.甲状腺眼症で肥大を示す筋はこの研究で調べた下直筋の比率が多いとのことであり、上下の眼位ずれは患者に強い不快感を起こす。患者は顎上げや顎引きで順応しようとするが、それで上下ずれに適応することは難しい。本研究では、315例の片眼下直筋腫大例の12か月間の臨床経過を後ろ向きに解析した。初回治療はトリアムシノロンテノン嚢下注射(STTA)185例(58.7%)、ステロイドバルス療法36例(11.4%)、BTX-A注射28例(8.9%)ほかであり、経過観察が102例(25.0%)であった。12か月後の時点で、ステロイドパルス療法群およびBTX-A群では、正面複視の有意な改善が認められていた。また、発症からの期間が短い症例、TSAb 高値例、初回治療に STTAを施行した症例では、治療後3か月時点で複視の一過性の悪化を認めたという。(この研究症例にはテツロツムマブ使用症例はない。)オリンピア眼科での甲状腺眼症治療のメインストリームはボトックス使用例が少し入っているだけで、テプロツムマム登場でも殆ど変わって無い様であった、フロアで伺ったら、患者さんは高価で不慣れな新薬を好まず、従来のステロイド使用でダメならばという方が多く、医師もあえてそれを勧めようとはしていないという事であった。
配布抄録の採録:
講演1 甲状腺眼症の片眼下直筋腫大例に対する治療戦略
オリンピア眼科病院 神前あい (バセドウ病悪性眼球突出の診断基準と治療指針の作成 副代表)
【目的】;甲状腺眼症(Thyroid Eye Disease: TED)においてQuality of Vision (ov)を著しく現なう症状の一つが複視である。特に片眼性の下直筋顔大例では、左右の眼球運動の非対教性が顕著となり、複視の症状が強く、治療後にも残存する傾向がある。本研究では、片眼下直筋腫大例の12か月間の臨床経過を後ろ向きに解析し、その治療経過を評価することで、今後の治療方針を検討することを目的とした。
【対象と方法】;2012年~2021年にオリンピア眼科病院を初診し、TEDに対する治療歴がなく、MRIにて片眼の下直筋腫大を認め、12か月以上経過観察が可能であった315例(男性 105例、女性 210例、平均年齢56.0土12.8歳、範囲19~89歳)を対象とした。12か月間における複視の程度およびその変化、複視症状の悪化時期を評価し、背景因子、MRI所見、初回治療内容との関連を解析した。また、BTX-A注射は2017年より導入されており、導入前(2012~2016年)と導入後(2017~2021年)で複視の経過および追加治療の必要性を比較検討した。
【結果】:初回治療は以下の通りであった:トリアムシノロンテノン嚢下注射(STTA)185例(58.7%)、ステロイドバルス療法36例(11.4%)、BTX-A注射28例(8.9%)、眼窩放射線療法4例(1.3%)、ステロイド内服4例(1.3%)、球後ステロイド注射3例(1.0%)。経過観察とした症例は102例(25.0%)であった。12か月後の時点で、ステロイドパルス療法群およびBTX-A群では、正面複視の有意な改善が認められた。また、発症からの期間が短い症例、TSAb 高値例、初回治療に STTAを施行した症例では、治療後3か月時点で複視の一過性の悪化を認めた。一方で、BTX-A投与症例では、STTA施行後3~12か月にかけて複視の有意な改善がみられ、さらに追加の消炎治療の必要性が有意に低下していた。
【結論】:片眼性下直筋腫大のTED 症例においては、STTAやパルス療法による消炎治療に加えて、BTX-A注射による早期の斜視治療を併用することで、複視の改善効果が高まる可能性が示唆された。複視の悪化時期を見極め、適切なタイミングでの治療介入を行うことが、視機能の安定化と長期的なQOVの改善に寄与すると考えられた。
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