「Can Upper-Room UV Light Prevent Nosocomial Respiratory Viral Infections?(共用スペース(廊下、ロビー、食堂など)の上部空間UV照射は院内感染を予防できるか?)」の内容を一般向けにわかりやすくまとめた記事です。
空気をきれいにして感染を防ぐ?―上部UV照射の可能性と課題
新型コロナウイルスのパンデミックによって、「ウイルスは主に空気中の微細な粒子=エアロゾルを介して感染する」という事実が広く知られるようになりました。これを受けて、空気を清潔に保つことで感染予防ができるのではないかという期待が高まりました。
具体的には、
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建物の換気性能の強化
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HEPAフィルターの設置
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254ナノメートル(nm)の「上部空間UV(紫外線)」殺菌装置の使用
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222nmの「全室UV」殺菌装置の導入
といった方法が考えられています。
特に注目されているのが「上部空間UV照射」です。これは紫外線を人の頭より高い位置に照射することで、空気中のウイルスを不活化しつつ、人への紫外線曝露による眼や皮膚の障害(たとえば角膜炎や白内障、皮膚がん)を避ける工夫がなされています。また、近年では222nmというより安全とされる波長のUV照射技術も登場しています。
今回紹介する研究の目的と方法
今回、南オーストラリアで行われた研究は、実際の高齢者施設において、上部UV照射が呼吸器感染症をどの程度防げるかを検証した、非常に貴重な臨床試験です。
4つの介護施設の共用スペース(廊下、ロビー、食堂など)に、254nmの上部UV装置を設置し、施設を2つのゾーンに分けて、UV照射の「有り」と「無し」の期間を交互に設けました。住居スペースやスタッフ専用エリアには設置しませんでした。
結果とその評価
研究期間中に診断された急性呼吸器感染症は計596件でした。うち227件がUV照射期間中、248件が非照射期間中に発生しており、1サイクルごとの感染率は、照射ありで3.81件、照射なしで4.17件と、統計的には有意差は見られませんでした(率比0.91、信頼区間0.77–1.09)。
しかし、後の時系列解析(感染の累積増加速度の比較)では、照射群では週当たり2.29件、非照射群では2.61件と、こちらは有意な差(−0.32件/週)が出ました。
この結果を受けて研究者たちは、「効果は控えめだが、高齢者施設のように感染リスクの高い集団では、UV照射が他の対策と併用されるべき」と結論づけました。
課題と限界
この研究にはいくつかの限界があります。
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感染症の診断が不正確
全員に検査を行ったわけではなく、主に咳や発熱といった症状の組み合わせで判断されたため、正確性に欠けます。 -
他の感染対策の影響
すべての施設で職員のマスク着用、3つの施設で住人同士の距離制限、1つの施設では訪問者制限が行われていました。これらが感染を抑える効果を持っていた可能性があります。 -
UV設置場所の制限
住民の多くが時間を過ごす居室には照射されておらず、効果が限定的だったと考えられます。 -
換気環境の情報不足
既存の換気性能についての情報が乏しく、UV照射の付加的効果の評価が困難です。
結論と今後の展望
UV照射は、「人の行動に依存せず、空気中のウイルスを減らせる」という点で魅力的な技術です。ただし、今回の研究では、その効果は限られており、特に顔と顔が向き合った状態での感染(近距離での飛沫感染)にはあまり効果が期待できません。
そのため、マスクの着用や距離の確保、ワクチン接種といった従来の対策と組み合わせて使う補助的な手段としての位置づけが現実的です。
今後は、より安全な222nm UV照射装置の効果や、費用対効果、安全性についても評価が進められることが望まれます。
出典:
Klompas M. Can Upper-Room UV Light Prevent Nosocomial Respiratory Viral Infections? JAMA Intern Med. Published online July 28, 2025. doi:10.1001/jamainternmed.2025.3403
(この元記事は、星進悦先生に紹介いただきました)
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