A: 甲状腺がんそのものよりも甲状腺機能異常に伴って生じる眼症状が知られています。特に、バセドウ病(甲状腺機能亢進症)に関連する眼症状が有名です。以下に詳しく説明します。
◎ 甲状腺関連眼症(Thyroid Eye Disease: TED, 旧称 Graves’ Orbitopathy)
甲状腺がんそのものが直接眼に転移することはまれですが、甲状腺自己免疫疾患に伴う眼症状が生じることがあります。特にバセドウ病や自己免疫性甲状腺疾患に関連して発症します。
① 主な症状
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眼球突出(exophthalmos):眼窩内の脂肪や外眼筋が炎症により腫脹するため、眼球が前方に押し出されます。
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眼瞼後退(lid retraction):上まぶたが引き上げられ、白目(強膜)が上方に露出します。
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複視(double vision):外眼筋が炎症や線維化を起こして動きが制限されるため、視線がずれて二重に見えます。
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結膜充血・浮腫(chemosis):眼球周囲の炎症による。
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角膜障害:眼球突出や眼瞼閉鎖不全により乾燥・角膜びらんを生じます。
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視神経障害:まれに外眼筋が視神経を圧迫し、視力低下や色覚異常をきたすことがあります(視神経症)。
 
◎ 発症の機序
自己免疫反応により、甲状腺に存在するTSH受容体に対する抗体が、眼窩内の線維芽細胞にも反応します。
これが炎症性の浮腫や線維化を引き起こし、眼球突出や筋肥厚をもたらします。
◎ 診断
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臨床所見:眼球突出度測定(ヘルテル測定)、眼瞼後退、複視評価。
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画像検査:眼窩CTやMRIで外眼筋の腫脹、脂肪組織の増加を確認します。
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甲状腺機能検査:FT3、FT4、TSH、TRAb(TSH受容体抗体)測定。
 
◎ 治療
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甲状腺機能の正常化が第一歩(抗甲状腺薬、放射線治療、手術など)。
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眼症状が強い場合:
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炎症期にはステロイド投与(全身または局所)。
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難治例では放射線治療や免疫抑制薬(例:リツキシマブ)。
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慢性期で眼球突出や複視が残る場合には眼窩減圧手術や斜視手術が行われます。
 
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◎ 甲状腺がんとの関連
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甲状腺乳頭がんや濾胞がんの眼窩転移はまれに報告されています。
この場合には、片眼性の眼球突出や眼痛、複視などを呈し、画像検査で眼窩腫瘍が確認されます。 - 
ただし、これは「甲状腺関連眼症」とは異なる腫瘍性転移による症状です。
 
◎ まとめ
| 病態 | 主な症状 | 原因 | 備考 | 
|---|---|---|---|
| 甲状腺関連眼症(TED) | 両側性眼球突出、眼瞼後退、複視 | 自己免疫反応 | バセドウ病に合併 | 
| 甲状腺がん眼窩転移 | 片眼突出、眼痛、視力低下 | がん転移 | 稀なケース | 
        


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