トランスジェンダーとノンバイナリーの人の心の健康を守るために
―JAMA 精神医学誌 2025年 8月掲載の研究より―
近年、「トランスジェンダー」や「ノンバイナリー」という言葉を耳にする機会が増えました。
トランスジェンダーとは、生まれたときに割り当てられた性別と、自分が感じる性(性自認)が異なる人のこと。
ノンバイナリーとは、「男性」か「女性」かのどちらかには当てはまらない、性の多様な在り方を指します。
こうした人々は社会の中で少数派(マイノリティ)として扱われやすく、偏見や差別、誤解にさらされることがあります。
そのような経験が積み重なることで、心の健康に負担がかかるのではないか――
この問題を、世界中の研究をまとめて検証した報告が2025年にJAMA精神医学誌に発表されました。
世界の研究をまとめて分析
オーストラリアと英国の研究チームは、過去に発表された41本のレビュー(既存研究のまとめ)を精査し、
重複を除いた24本を統合しました。対象は、トランスジェンダーやノンバイナリーの人たちの
「心の健康(うつ病、不安、自殺念慮など)」や「神経発達特性(発達障害など)」に関する調査です。
分析の結果、どの国のデータでも共通して、
シスジェンダー(性自認と出生時の性が一致する人)に比べ、
トランスジェンダーやノンバイナリーの人々では
メンタルヘルスの状態が悪化しやすい傾向が見られました。
数字で見るメンタルヘルスの現状
研究をまとめた結果、次のような傾向が示されています。
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自殺を考えたことがある人 およそ50%
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自殺を試みたことがある人 約30%
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自分を傷つけた経験がある人 約47%
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摂食障害(過食や拒食)を経験した人 約18%
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自閉スペクトラム症(ASD)の診断を受けた人 約11%
また、トランスジェンダーの人はシスジェンダーの人に比べて、
自殺念慮や自傷行為、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などのリスクが2〜3倍高いこともわかりました。
まだ足りない研究も
ただし、研究には課題もあります。
たとえば、ノンバイナリーの人を対象とした調査はまだ少なく、
「トランス男性」「トランス女性」など性別ごとの違いも十分に検討されていません。
また、多くの研究が一時点のデータであり、時間を追って心の変化を追跡した報告は少ないのが現状です。
すべての人が安心して生きるために
このレビューは、「トランスジェンダーやノンバイナリーの人々が抱える心の不安やリスク」を、
社会として理解し、支援体制を整えることの重要性を示しています。
性の多様性を尊重し、安心して自分らしく生きられる環境を作ること――
それは、医療現場だけでなく、学校、職場、地域社会が共有すべき課題です。
眼科を含む一般診療の場でも、性自認や背景に配慮した対応が求められます。
もし受診時に不安を感じたり、心の調子を崩しているようなら、
遠慮なく医療者に相談してください。性のあり方にかかわらず、誰もが健康に生きる権利をもっています。
出典:
Hainey KJ, Connolly DJ, Thomson R et al.
Mental Health Outcomes in Transgender and Nonbinary People: An Umbrella Review.
JAMA Psychiatry. 2025;82(11):1142-1151. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2025.1850



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