全身病と眼

[No.4219] ガドリニウム増強動脈瘤壁画像は、未破裂脳動脈瘤の「危険度」をどこまで予測できるのか;記事紹介

ガドリニウム増強動脈瘤壁画像は、未破裂脳動脈瘤の「危険度」をどこまで予測できるのか

― JAMA Neurology(2025年)より最新エビデンス ―

未破裂の頭蓋内動脈瘤は、成人の3〜7%に存在するとされ、脳ドックや画像検査の普及に伴って偶然発見されるケースが増えています。問題は、そのすべてが将来破裂するわけではないという点で、どの動脈瘤を治療すべきかの判断は現在も難しいテーマです。従来は大きさや部位、高血圧の有無といったPHASESスコアが用いられてきましたが、近年「動脈瘤の壁そのものを見るMRI」が新しい可能性として注目されています。今回紹介するJAMA Neurologyの大規模研究は、この壁画像診断が実際に破裂・増大リスクを予測できるかを検証したものです。

本研究は中国の83施設から1351人を集めた前向きコホートで、対象者は3mm以上の無症状の未破裂動脈瘤を持つ18〜75歳の患者でした。全例がベースライン時に3テスラMRIによるガドリニウム増強の動脈瘤壁画像を受け、さらにCTAで経過が追われました。4年間のフォローアップで、1416個の動脈瘤のうち235個(16.6%)で成長または破裂が起きています

注目すべきは動脈瘤壁の「増強パターン」と不安定化の関係です壁全体がリング状に強く増強される「環状AWE」を示した動脈瘤では、4年間で36.8%が不安定化しており、これは局所的な増強(17.2%)や増強なし(11.4%)と比べて明らかに高い数字でした。Cox回帰分析でも環状AWEは破裂・成長の強い独立予測因子であり、そのハザード比は調整後で2.21と、有意なリスク上昇が確認されています。この壁の増強は、炎症や血管透過性亢進を反映すると考えられ、従来のサイズ・部位とは異なる角度から動脈瘤の危険性を示すものです。

これまでの壁画像研究は小規模で、追跡期間も短いため実臨床への応用には慎重さが求められていました。しかし今回の研究は4884「動脈瘤年」という大規模な観察を行い、環状AWEが明確に不安定性と相関することを示した点で大きな進歩といえます。もちろん、MRI装置や撮影プロトコルの違い、ガドリニウム投与の可否など、現場での限界点も残りますが、動脈瘤壁画像が近い将来、治療方針決定の重要な指標になる可能性は高まっています。

眼科領域では直接かかわる機会は少ないものの、糖尿病や高血圧などの全身疾患を持つ患者さんの診療では、脳血管のリスクに関する最新情報を知っておくことは有用です。特に脳動脈瘤は無症状のうちにフォローアップの適否を判断しなければならず、今回の研究のような画像バイオマーカーは将来の医療判断に大きな意味を持つでしょう。


■ 出典

Liu QY, Xie N, Vargawewen MDI, et al.

Gadolinium-Enhanced Aneurysm Wall Imaging and Risk of Growth or Rupture of Intracranial Aneurysms.

JAMA Neurology. Online published September 8, 2025; 82(11):1135-1143. doi:10.1001/jamaneurol.2025.3209

■ 清澤のコメント

今回の研究は、動脈瘤の「壁」を見るという視点が、破裂危険性の評価にどれほど重要かを示した大変貴重なデータです。眼科領域でも血管壁病変の評価は常に課題であり、医学全体において画像診断の進歩が治療判断を大きく変える時代に入っていると感じます。

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