眼科医として、咽頭ジストロフィー(特に筋ジストロフィーの一種としての咽頭遠位筋ジストロフィー)やその他の遺伝性筋疾患を疑う場合、特に眼症状と筋症状の組み合わせが重要な診断の鍵になります。このような患者で遺伝性疾患をさらに疑う所見や検査には以下のようなものがあります:
疑うべき所見・症状(身体所見含む)
- 眼症状
- 外眼筋麻痺(眼球運動障害):進行性外眼筋麻痺(PEO)は、ミトコンドリア病や筋ジストロフィーでよく見られます。
- 眼瞼下垂:先天性または進行性の両側性眼瞼下垂は、筋疾患を示唆します。
- 白内障(若年性):ミオトニックジストロフィーで典型的。
- 網膜異常や視神経萎縮:例:ミトコンドリア病(Leber遺伝性視神経症など)
- 全身症状
- 構音障害や嚥下困難(咽頭筋の関与)
- 遠位筋優位の筋力低下
- 心電図異常、徐脈、伝導障害
- 糖尿病や内分泌異常:ミトコンドリア病ではしばしば併存。
- 認知機能障害や日内変動(脳の関与)
検査で見るべき項目
- 血液検査
- CK(クレアチンキナーゼ):軽度〜中等度上昇。必ずしも高くはない。
- 乳酸・ピルビン酸:ミトコンドリア病では上昇することがある。
- HbA1cや甲状腺機能:内分泌異常のスクリーニング。
- 筋電図(EMG)
- ミオパチー型の変化(小振幅・短持続時間)。
- ミオトニア放電がある場合:ミオトニックジストロフィーを疑う。
- MRI(頭部・筋)
- 筋萎縮や脂肪変性(特に遠位筋優位なら遠位型筋ジストロフィーを示唆)。
- 脳白質病変(特にミトコンドリア病でみられることがある)。
- 遺伝子検査
- DMPK遺伝子のCTGリピート検査:ミオトニックジストロフィー1型。
- CNBP遺伝子(旧ZNF9):DM2型。
- POLG, OPA1などミトコンドリア関連遺伝子
- その他:GNE(GNEミオパチー)、RYR1、DYSF(dysferlin異常)など
- 眼科的検査
- 視神経乳頭の評価(萎縮、浮腫)
- OCT、ERG、視野検査などで視神経や網膜機能を評価
- 眼球運動の精査(特に外眼筋の麻痺)
コメント
精密な検査のための紹介を希望しない患者さんの場合、全身精査が難しくなることがありますが、眼科的異常が遺伝性筋疾患の初発症状であることもあるため、眼科での異常を根拠にして患者と対話を進めるのが有効です。
必要であれば、眼科から「視機能の異常精査」として脳神経内科や神経眼科へのステップ紹介も検討できます。
- 以下に、眼症状+咽頭筋症状(発声障害など)+遠位筋症状がある40歳の患者に対して、疑われる遺伝性疾患の鑑別リストと検査の組み合わせを表形式でまとめます:
疑われる遺伝性疾患と検査の対応表
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疾患名 |
主な症状・所見 |
特徴的な眼所見 |
有用な検査 |
関連遺伝子 |
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ミオトニックジストロフィー1型(DM1) |
筋力低下(遠位優位)、構音障害、心伝導障害、内分泌異常 |
眼瞼下垂、白内障、眼筋麻痺 |
ミオトニア放電(EMG)、CTGリピート検査 |
DMPK |
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ミオトニックジストロフィー2型(DM2) |
DM1より軽症、近位筋優位、ミオトニア |
白内障(やや少なめ) |
CNBP遺伝子検査(CCTGリピート) |
CNBP(ZNF9) |
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GNEミオパチー |
遠位筋(特に前脛骨筋)から進行、構音・嚥下障害もありうる |
眼症状は稀だが報告あり |
CK軽度上昇、筋生検(rimmed vacuoles) |
GNE |
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ミトコンドリア病(PEO含む) |
外眼筋麻痺、眼瞼下垂、嚥下障害、糖尿病、脳症など |
進行性外眼筋麻痺、視神経萎縮、網膜異常 |
乳酸・ピルビン酸、mtDNA検査、筋病理、脳MRI |
POLG, OPA1 など |
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顔面肩甲上腕型ジストロフィー(FSHD) |
顔面筋・肩甲帯筋優位、徐々に進行 |
眼瞼下垂(稀)、網膜血管異常(Coats様病変) |
DNA Southern blot(D4Z4リピート短縮) |
DUX4(4q35) |
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エメリー・ドレフス型 |
心伝導障害+遠位筋・肩甲帯筋障害 |
眼所見少ないが筋緊張低下あり |
心電図、CK、遺伝子検査 |
EMD, LMNA |
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オキュロ咽頭型筋ジストロフィー |
高齢発症(通常50歳以降)、眼瞼下垂、構音・嚥下障害 |
進行性眼瞼下垂、外眼筋麻痺 |
PABPN1遺伝子のGCNリピート数検査 |
PABPN1 |
補足事項
- 視神経萎縮や網膜変性がある場合はミトコンドリア病やFSHDを強く疑う。
- 白内障の若年発症はミオトニックジストロフィーの診断を導くヒントになる。
- ミオトニア放電がEMGで検出された場合は、DM1またはDM2が強く疑われる。
- 患者が大学病院を希望しない場合、外来で可能な血液・眼科検査を進めて、その結果で説得材料を整える戦略が有効です。殊に最初に示された血液検査を出してみることも考えられます。



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