全身病と眼

[No.4313] 心の病気と「炎症」の深い関係 ― 目の不調や感覚過敏ともつながる新しい視点 ―

心の病気と「炎症」の深い関係

― 目の不調や感覚過敏ともつながる新しい視点 ―

近年、うつ病や統合失調症、自閉スペクトラム症などの「こころの病気」と、体の中で起こる炎症反応との関係が注目されています。炎症といえば、ケガや感染症のときに起こる反応を思い浮かべる方が多いと思いますが、実は脳や神経の働きにも深く関わっていることが分かってきました。

今回の論文は、こうした神経精神疾患における炎症研究を幅広く整理した総説です。これまでの臨床研究や動物実験の結果から、すべての患者さんではないものの、一部の人では炎症が症状の発症や持続に関与している可能性が示されています。特に注目されているのが、IL-6という炎症性サイトカイン、免疫を担うT細胞の働き、代謝と免疫の相互作用、そして補体系と呼ばれる免疫システムです。

ここで重要なのは、「炎症がある=すぐに治療が変わる」という段階には、まだ至っていない点です。現時点では、抗炎症薬が精神疾患の標準治療になるところまでは進んでいませんが、特定の患者さんを対象にした治験は進行中であり、将来的な治療の選択肢拡大が期待されています。

この炎症の視点は、眼科領域、とくにドライアイや眼瞼痙攣、感覚過敏を訴える患者さんを診ている立場から見ても、非常に示唆的です。ドライアイは単なる「涙の不足」ではなく、眼表面の慢性炎症が関与する疾患であることが知られています。また、眼瞼痙攣では、まぶたの運動異常だけでなく、「まぶしさ」「違和感」「不快感」といった感覚過敏が強くみられます。

近年、こうした感覚過敏は、目だけの問題ではなく、脳の感覚処理の過敏化と関係している可能性が指摘されています。炎症が神経の働きを微妙に変化させることで、「刺激を刺激として感じすぎてしまう状態」が生じる、という考え方です。これは、光に過敏になる羞明や、音や触覚にも敏感になる状態とも共通しています。

つまり、ドライアイや眼瞼痙攣を「局所の病気」としてだけでなく、全身の炎症状態や脳の感覚調節の問題として捉えることが、症状理解の助けになる可能性があります。実際、ストレス、不安、睡眠障害、慢性的な体調不良が、目の症状を悪化させることは、日常診療でもよく経験します。

今回の論文が強調しているのは、今後の研究には、精神科、神経科学、免疫学、さらには臨床各科が連携する「横断的な取り組み」が不可欠だという点です。眼科領域でも、こうした視点を持つことで、これまで説明しきれなかった症状を、患者さんと共有しやすくなると考えています。

目の不調は、決して「気のせい」ではありません。体と脳、そして免疫のバランスが少し崩れた結果として現れるサインであることもあります。今後の研究の進展により、目とこころをつなぐ新しい治療やケアの道が開かれることを期待したいと思います。


出典

Upthegrove R, Corsi-Zuelli F, Couch ACM, et al.

Current Position and Future Direction of Inflammation in Neuropsychiatric Disorders.

JAMA Psychiatry. Published online July 9, 2025.

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