全身病と眼

[No.4397] 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と妊娠― ミオイノシトール補給は合併症を防げるのか ―

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と妊娠― ミオイノシトール補給は合併症を防げるのか ―

 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)のある女性は、妊娠糖尿病や子癇前症、早産といった妊娠合併症のリスクが高いことが知られており、これらを予防する方法が長年検討されてきました。その中で注目されてきたのがミオイノシトールです。ミオイノシトールはビタミン様物質の一種で、インスリンの働きを改善する可能性があるとして、PCOSの女性や妊娠中のサプリメントとして広く使用されてきました。しかし、妊娠中に毎日ミオイノシトールを補給することが、本当に妊娠合併症の予防につながるのかについては、これまで明確な結論は出ていませんでした。
この疑問に答えるため、オランダの13病院で二重盲検・プラセボ対照・無作為化比較試験が行われました。対象は妊娠8~16週のPCOS妊婦464人で、参加者は無作為に二つの群に分けられました。一方の群はミオイノシトール2gと葉酸0.2mgを1日2回、もう一方の群は葉酸0.2mgのみを含むプラセボを、いずれも出産まで服用しました。主要評価項目は、妊娠糖尿病、子癇前症、または妊娠37週未満の早産のいずれかが起こるかどうかという複合アウトカムでした。
その結果、妊娠糖尿病・子癇前症・早産のいずれかを発症した割合は、ミオイノシトール群で25.0%、プラセボ群で26.8%とほぼ同じで、統計学的に有意な差は認められませんでした。相対リスクは0.93で、ミオイノシトール補給による明確な予防効果は示されなかったのです。年齢や人種、ホルモン状態などを考慮しても、この結果は変わりませんでした。
この研究結果は、PCOSの妊婦に対して妊娠合併症を予防する目的で、妊娠中のミオイノシトール補給を routine に勧める根拠はないことを示しています。これまで「体にやさしそう」「害が少なそう」という印象から期待されてきたサプリメントであっても、しっかりとした臨床試験で効果が確認されなければ、医療として推奨することはできません。眼科診療の現場でもサプリメントに関する相談は増えていますが、「安全そう=効果がある」わけではない点は重要です。妊娠中の管理やサプリメントの使用については、自己判断に頼らず、必ず主治医と相談しながら判断することが大切だといえるでしょう。
出典:van der Wel AWT, Frank KMC, Boot-Rebel R, et al. Myoinositol Supplementation for Prevention of Pregnancy Complications in Polycystic Ovary Syndrome. Randomized Clinical Trial. JAMA. 2025;334(13):1151-1159. doi:10.1001/jama.2025.13668

補足解説:上の論文に対する編集者宛投書(レター)の要旨を、約500文字・一般向けでわかりやすい文にまとめます。

今回の大規模臨床試験では、PCOS妊婦に対する妊娠中のミオイノシトール補給に明確な予防効果は認められませんでしたが、投書ではいくつかの重要な補足点が指摘されています。まず、ミオイノシトール群の服薬遵守率が十分とは言えず、実際に薬剤の効果が発揮されるだけの量が体内に取り込まれていたか判断しにくい点が問題とされています。服薬量が不十分であれば、本来の効果が過小評価される可能性があります。また、補給開始が妊娠8~16週とやや遅く、インスリン感受性や胎盤形成に最も影響しやすい早期を逃していた可能性も指摘されています。さらに、妊娠糖尿病、子癇前症、早産を一つにまとめた評価方法では、個々の疾患への影響が見えにくくなった可能性があります。対象集団が比較的均質である点や、生物学的指標を十分に評価していない点も限界とされました。一方で、今回の結果は2023年のコクランレビューとも一致しており、現時点では妊娠中のミオイノシトール補給を routine に勧める根拠は乏しく、この事実は患者への説明や意思決定の場で共有すべき重要な情報であると結論づけています。

出典:Huang PY, Fu DC, Chang CM, et al. Prevention of Pregnancy Complications in Polycystic Ovary Syndrome With Myoinositol Supplementation. Letter to the Editor. JAMA. Online published January 22, 2026. DOI:10.1001/JAMA.2025.22968

追記:

質問:

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)に関連して、月経不順やホルモン異常と目の不調は関係がありますか。

答え:

一見関係なさそうに思えますが、月経不順やホルモンの乱れは、目の調子にも影響することがあります。PCOSではホルモンバランスが不安定になり、特に男性ホルモンの影響が相対的に強くなることがあります。実はホルモンは、涙やまぶたの働きにも関係しています。目の表面は、涙の水分と、まぶたの縁から出る油分のバランスで守られていますが、ホルモンの乱れがあると、この油分の分泌がうまくいかなくなり、涙が蒸発しやすくなります。その結果、目の乾き、ゴロゴロ感、夕方の見えにくさ、コンタクトレンズの不快感などが起こりやすくなります。

また、PCOSの治療で低用量ピルなどのホルモン治療を始めた後に、目の乾きを感じる方もいます。これは珍しいことではなく、体がホルモン環境の変化に適応する途中で起こることがあります。

目は体調やホルモン状態を反映しやすい臓器です。月経不順やホルモン治療中に目の不調が出た場合は、「目だけの問題」と思い込まず、眼科で相談することで適切なケアにつながります

メルマガ登録
 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

最近の記事

  1. 阿佐ヶ谷桃園川緑道公園に西洋サクラソウ(プリムラ・ジュリアン)の花が咲きました

  2. 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)と妊娠― ミオイノシトール補給は合併症を防げるのか ―

  3. 宇宙飛行で進む視神経乳頭浮腫は予測できるのか ― 宇宙医学とOCTが示した新しい可能性 ―論文紹介