血管がつくる認知症 ― 見逃されがちな「血管性認知障害」とは何か
2026年2月27日付で、循環器領域の代表的学術誌であるJournal of the American College of Cardiology(JACC)に、「Vascular Cognitive Impairment and Dementia(血管性認知障害と認知症)」に関する包括的レビューが掲載されました。本稿では、その内容を一般の方にも理解できるように整理し、その意義を考えてみたいと思います。(この文献情報は、星進悦先生から頂きました。)
■ 背景 ― アルツハイマー病だけが認知症ではない
認知症といえば、Alzheimer’s diseaseを思い浮かべる方が多いでしょう。しかし実は、脳の血管障害によって起こる認知症、すなわち「血管性認知障害(VCID)」は、アルツハイマー病に次いで2番目に多い原因で、全体の15~20%を占めます。
さらに重要なのは、血管障害は単独で認知症を起こすだけでなく、アルツハイマー病と合併することが非常に多いという事実です。実に認知症患者の最大75%で、脳血管障害が何らかの形で関与していると報告されています。
高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、肥満、運動不足といった生活習慣病は、心臓病や脳卒中だけでなく、認知症の発症リスクも高めます。つまり、「血管を守ること」は「脳を守ること」でもあるのです。
■ 要旨 ― 何を明らかにしたのか
本論文はレビュー論文であり、新たな実験結果を報告するものではなく、これまでの研究を整理し、診断・病態・バイオマーカーの最新知見をまとめたものです。
目的は、循環器医をはじめとする臨床医が、血管性認知障害を早期に発見し、予防・管理できるようにすることです。
方法として、過去の研究や診断基準、画像診断やバイオマーカーの進歩を総合的に検討しています。
結果・知見の要点は次の通りです。
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VCIDは「脳血管障害による認知機能低下」の総称であり、症状がない“脳のリスク状態”から軽度認知障害、そして血管性認知症までを含む広い概念である。
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診断は2段階で行う。
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まず認知機能低下の存在を確認する。
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次に、その原因が主に血管性であることを、病歴・診察・MRIで確認する。
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症状の現れ方には特徴がある。
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脳卒中後に急に悪化する
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段階的に悪化する
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小さな血管障害ではゆっくり進行する
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初期には「物忘れ」よりも
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情報処理速度の低下
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注意力低下
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判断力(実行機能)の低下
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感情の不安定さ
が目立つことが多い。
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MRIでは
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小さな脳梗塞
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ラクナ梗塞
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白質病変
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微小出血
などが診断の手がかりとなる。
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さらに、心房細動、心不全、心筋梗塞、弁膜症などの心疾患がVCIDのリスクを高めることも強調されています。
■ 結論 ― 認知症は「血管の病気」でもある
本論文の結論は明確です。
血管性認知障害は決して稀な病気ではなく、循環器診療の現場で日常的に遭遇する重要な問題である。そして何より、血管リスクの管理によって予防や進行抑制が可能である点が大きな特徴です。
アルツハイマー病と異なり、血管性認知障害は「生活習慣の改善」や「心血管疾患の適切な治療」によって発症を減らせる可能性があります。これは希望でもあります。
👁 眼科医院長としての視点から
眼科医の立場から見ても、このテーマは決して他人事ではありません。糖尿病網膜症や高血圧性網膜症、網膜血管閉塞症など、私たちは日常診療で血管障害を目にしています。網膜は“脳の窓”ともいわれ、全身の血管状態を映し出します。
視力低下や視野障害を契機に来院された患者さんが、実は脳の血管病変を抱えていることも少なくありません。逆に、認知機能の低下があると、点眼治療や手術後管理が難しくなることもあります。
血管を守ることは、目を守り、脳を守ることにつながります。
生活習慣病の管理は、単に心筋梗塞や脳卒中を防ぐためだけではありません。将来の認知症予防という視点でも、極めて重要なのです。
私たち医師は、臓器の垣根を越えて「血管」という共通のテーマを意識する必要がある時代に入ったと感じます。
出典
Sachdev PS, et al.
Vascular Cognitive Impairment and Dementia: Clinical Features, Neuropathology, and Biomarkers.
Journal of the American College of Cardiology. February 27, 2026.



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