清澤のコメント:甲状腺眼症を含む眼疾患に関する若倉正登先輩の解説記事が時事通信から配信されている。通常の眼科医でも甲状腺疾患は見るが、その道の名人もいることは眼科医仲間では知られるところでもある。勝手に名前を出すわけにもゆかないが、原宿のO眼科病院では昔からI先生らが甲状腺治療で知られる病院と連携してこの疾患を多数扱っている。東京医科歯科大学で非常勤講師もされていた先代の大先生に、「外眼筋の癒着を丁寧に剥がして眼位を整える」のだとその特殊な斜視手術の指導を受けたのを思い出す。また米国のウイルズ眼科病院の神経眼科医は、甲状腺性視神経症で圧迫の強い例に出会うと、金曜午後でも眼形成外科に緊急手術を要請していた。東京銀座のOクリニックのK先生らは、最新の米国仕込みの眼科形成眼科の立場で眼窩減圧術などの手術も手掛けている。
若倉先生が記事でいう通り、甲状腺眼症を得意として扱う眼科医は少ないから、自分の担当医に相談してみても良いだろう。もし受診して聞いてくだされば、私からも適切な医師を紹介申し上げよう。さて、若倉先生の記事(ことに後半部分を)を抄出してみる。⇒https://news.yahoo.co.jp/articles/4173cac97dccc6854a356c0306d8372d3367fd2e?page=1
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全身の病気が目に現れる ~部位により自己免疫疾患も~
高血圧や動脈硬化、糖尿病などの全身病が眼球の病気(合併症)として時に表面化することがあります。(中略)
図1
高血圧、動脈硬化、糖尿病などの血管障害のリスクになりうる病気を持っている方に生じる眼合併症に、網膜静脈閉塞や網膜動脈閉塞、虚血性視神経症といった病気があります。(中略)
◇新たな薬の登場
最近の治療におけるブレークスルーとして特筆すべきは分子標的薬(病気の原因となっている特定の分子を狙い撃ちにするように設計された薬)の登場です。高額なことや感染症を起こしやすい副作用があることが難点ではありますが、治療効果・再発予防効果には目覚ましいものがあります。
◇像が二つ「複視」に注意
眼球の機能として、左右それぞれの目の視機能だけでなく、両眼で見て初めて加わる距離感、立体感を検出するという大事な「両眼視機能」があります。眼球運動の制限が生じて目の位置に変化が起きた時にこの機能が損なわれ、「複視(両眼で見て像が二つに見える)」という形で気付くことがあります。 眼球を動かしている六つの筋肉(外眼筋)は動眼神経、滑車神経、外転神経と呼ばれる脳神経に支配されていますから、脳内の動脈瘤、腫瘍や神経を栄養とする血管の問題などで自在に目が動かせなくなり、本来の目の位置が変化することで複視を生ずる結果となります。 自己免疫のメカニズムで外眼筋の機能低下が起こる病気があります。例えば、重症筋無力症は全身のどの筋肉にも起こり得るものですが、外眼筋やまぶたを開けるための上眼瞼挙筋は症状が出易い部位で、この病気の7割以上で初発時あるいは経過中に眼瞼下垂や複視の症状が出現します。特に両眼視機能が発達途上の幼児では、眼瞼(がんけん)下垂や複視がそれを抑制する可能性があり、眼科医による適切な管理が必要となります。
◇甲状腺眼症を扱う医師が少ない
図2
バセドウ病でイメージされる眼球突出は極端な場合ですが、甲状腺眼症は機能亢進(こうしん)症や橋本病などの甲状腺の病気で見られることがあります。眼球運動の制限や目の位置異常による複視で表面化することがある、両眼または片眼の外眼筋の腫脹 (図2)が特徴です。 甲状腺関連抗体が外眼筋などの眼球周囲の組織に出現して悪さをすることが推定されています。厄介なことに、甲状腺の治療をして甲状腺機能が良好な状態にあっても眼症が出てくる場合が多いので、甲状腺を扱う内科だけで治療していれば大丈夫というのもではないのです。しかし、甲状腺眼症の治療を積極的に行っている眼科の施設は限られていて、早期治療ができずに回復させる機会を逸してしまう例によく遭遇します。 医学が進歩すると、専門科の縦割り化が進むのは仕方ない点もありますが、一つの診療科だけで完結するとは限りません。こうした全身病にとっては弱みになりやすいことにも気付いておきたいものです。(了)
若倉雅登(わかくら・まさと) 1949年東京都生まれ。北里大学医学部卒業後、同大助教授などを経て2002年井上眼科院長、12年より井上眼科病院名誉院長。その間、日本神経眼科学会理事長などを歴任するとともに15年にNPO法人「目と心の健康相談室」を立ち上げ、神経眼科領域の相談などに対応する。著書は「心をラクにすると目の不調が消えていく」(草思社)など多数。
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