近視・強度近視

[No.4167] 強度近視にみられる「脈絡膜内キャビテーション」

強度近視にみられる「脈絡膜内キャビテーション」──眼底の奥にできる小さな空洞とは

最近の雑誌Ophthalmology retinaにこの疾患の紹介が出ていました。強度近視の方では、眼球が後方に長く伸びる「軸性近視」により、網膜や脈絡膜(もうまくまく)などの奥の組織にさまざまな変化が生じます。その中で、近年OCT(光干渉断層計)の発達によって明らかになった所見のひとつに「脈絡膜内キャビテーション(Choroidal Cavitation)」があります。日本語では「脈絡膜内空洞」や「脈絡膜内陥凹」とも呼ばれます。

◎どんな場所にできるのか

この変化は多くの場合、視神経乳頭(ししんけんにゅうとう)=視神経の出口のすぐ下(下耳側)に見られます。眼球が後ろに伸びた結果、脈絡膜が局所的に引き延ばされ、その一部が硝子体腔(しょうしたいくう:眼球内のゼリー状の部分)と交通し、小さな空洞ができると考えられています。

◎眼底写真での見え方

カラー眼底写真では、視神経の下側に黄褐色〜暗褐色の半月状の陰影として現れます。一見すると、萎縮したようにも見えるため、従来は「後部ぶどう膜萎縮」と誤認されることもありました。蛍光眼底造影では明確な漏出を伴わないのが特徴です。

◎OCTでの所見

診断にはOCT(光干渉断層計)が非常に有効です。5ラインズスキャンなどで観察すると、脈絡膜の層が裂けてできた空洞が視神経の隣に見えます。硝子体との境界が途切れ、空洞と連続しているように見える場合もあります。このOCT像が、現在ではもっとも確実な診断根拠です。

◎症状や視野への影響

多くの場合、自覚症状はありません。視力も保たれ、眼底検査の際に偶然見つかることが多いです。ただし、一部では視神経線維の走行が変化し、下方の視野に軽い欠損が出ることがあります。緑内障との鑑別が必要な場合もあります。

◎経過と治療方針

脈絡膜内キャビテーションは、炎症や腫瘍のように進行する病気ではなく、強度近視に伴う構造的変化と考えられています。したがって、特別な治療を要することはほとんどありません。ただし、近接部位に網膜裂孔や出血が起こることもあるため、定期的な眼底・OCT検査で経過を追うことが推奨されます。

◎まとめ

脈絡膜内キャビテーションは、強度近視の眼に特有の「構造の歪み」として知られるようになった新しい所見です。視力や視野への影響は軽度ですが、他の疾患と見分けるために正確な画像診断が大切です。強度近視の方は、少なくとも年1回、眼底写真とOCT検査を受けて眼の奥の変化を確認しておくと安心です。


(参考英語名:Peripapillary or Choroidal Cavitation in High Myopia)

Pictures &Perspectives、第 9 巻、第 11 号e1082025 年 11 月

硝子体腔と連絡する脈絡膜内キャビテーション

表紙画像 - 眼科網膜 、 9巻、11号
高度近視の83歳の女性患者が左眼の脈絡膜病変のために紹介されました。患者は無症候性で、両眼の視力は10/10でした。眼底検査では、近視変性、乳頭周囲萎縮 (白い矢印)、および関連する出血または網膜下液のない明確な黄色がかった乳頭周囲病変 (緑色の矢印) が明らかになりました (A、B)。B スキャン OCT は、硝子体腔と連絡する低反射性脈絡膜内キャビテーションを示しました。分裂または漿液性網膜剥離は観察されませんでした (C、D)。(図A–Dの拡大版は、www.ophthalmologyretina.org でオンラインで入手できます)。
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