強度近視で黄斑変性や視野欠損が心配な方へ
強度近視のある方では、眼球が前後方向に伸びることで網膜や脈絡膜が薄くなり、年齢とともに黄斑部の変性や視野の狭窄が生じやすくなります。さらに強度近視は正常眼圧緑内障の大きな危険因子であり、気づかないうちに視野が欠けてしまうこともあります。ここでは、日常生活で気を付けていただきたい事柄と、眼科で行える対応策をまとめました。
まず大切なのは、定期的な眼底検査とOCTによる網膜の構造評価です。強度近視では、自覚症状が乏しいまま変化が進むことが多く、特に黄斑部の網膜分離症、脈絡膜新生血管(CNV)、緑内障性視神経障害などは早期発見が重要になります。当院では少なくとも年に1~2回のOCT検査と視野検査を推奨しています。
日常生活においては、近距離作業のやりすぎを避けることが第一です。スマートフォンの長時間利用や読書の姿勢が悪いと、眼軸長がさらに伸びる方向に負担がかかります。特に40cm以内の作業を長時間続けないこと、1時間作業したら5分は遠くを見る休憩を取ることが望ましいとされています。また、戸外活動量が成人でも一定の保護効果を持つことが指摘されています。日中に太陽光下で30分以上散歩する習慣は、網膜健康にも良い影響があります。
照明環境の工夫も大切です。薄暗い場所での細かい作業は、網膜に余分な負荷をかけます。夜間の外出で眩しさが強い場合には黄色系のコントラストレンズが有効です。
眼科で行える治療としては、まず緑内障の可能性がある場合には緑内障点眼薬を開始します。強度近視の視神経は構造的に弱いため、正常眼圧であっても神経線維層の菲薄化が進むことがあります。OCTでRNFLやGCCの低下が見られれば、眼圧を10〜20%下げる治療により進行抑制が期待できます。
黄斑部に変性が疑われる場合には、状況に応じて抗VEGF療法を行います。脈絡膜新生血管を抑制することで視力低下を食い止めることが可能です。また、軽度の萎縮や機能低下の段階では、ルテイン・ゼアキサンチン・アスタキサンチンを含むサプリメントが網膜の抗酸化作用を高める目的で使用されます。強度近視特有の萎縮には限定的な効果ですが、黄斑部の負担を軽減する目的で推奨されることがあります。
さらに、血圧・血糖の管理も重要です。高血圧や糖尿病は網膜循環を悪化させ、変性を加速させます。睡眠時無呼吸などの夜間低酸素も視神経に悪影響を与えるため、該当する方には専門科受診をお勧めします。
突然のゆがみ、急な視力低下、黒い影が見えるなどの症状は、網膜裂孔・硝子体出血・CNV発症のサインである可能性があります。こうした症状があれば早急に受診してください。強度近視の網膜は非常に薄く、早期治療が視力を守る鍵となります。
強度近視は生涯にわたり眼のケアが必要となる「体系的に管理すべき状態」です。しかし適切な検査と生活習慣、早期治療を組み合わせれば、視機能を長く保つことは十分可能です。当院では患者さん一人ひとりの経過をOCT・視野検査・眼軸長測定などで継続的に追跡し、最適な治療介入を提案していきます。少しでも異常に気付いた際は遠慮なくご相談ください。



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