片側にだけ起こる乳頭周囲脈絡膜空洞症(PICC)は何を語るのか
― 近視眼における視神経乳頭深部構造の新しい理解 ―
背景
乳頭周囲脈絡膜空洞症(Peripapillary Intrachoroidal Cavitation:PICC)は、視神経乳頭の周囲に、脈絡膜内の低反射領域としてOCTで観察される特徴的な所見です。眼底写真では黄橙色の病変として認識されることもあり、主に強度近視眼で報告されてきました。
PICCは、緑内障に似た視野異常と関連することがあり、「緑内障による障害なのか、近視に伴う構造変化なのか」という鑑別を難しくする要因の一つです。近視は開放隅角緑内障の重要な危険因子であるため、PICCの構造的背景を理解することは、臨床上きわめて重要です。
一方、近年の研究では、乳頭周囲脈絡膜空洞症(PICC)は必ずしも眼球の長さ(軸長)が著しく長い眼に限って生じるわけではなく、片眼のみに発症する症例も少なくないことが明らかになってきました。このことは、PICCの形成が単なる眼球伸長だけでは説明できないことを示唆しています。
目的
本研究の目的は、片側性に乳頭周囲脈絡膜空洞症(PICC)を認める患者さんを対象として、PICCのある眼と反対側の眼を比較し、PICCに特有な視神経乳頭の深部構造および形態の違いを明らかにすることです。両眼比較により、年齢や遺伝的背景などの個体差の影響を最小限に抑え、PICCに直接関係する構造的特徴を抽出することを目指しました。
方法
OCT検査で片側性の乳頭周囲脈絡膜空洞症(PICC)が確認された53名、計106眼を対象とした後ろ向き横断研究です。
視神経乳頭を中心とした12方向のOCT断層像を用い、ブルッフ膜開口部(BMO)の面積や形状、強膜フランジ開口部(SFO)の面積、さらに両者の位置のずれ(臨床的には乳頭周囲萎縮やガンマ帯・デルタ帯に相当)を詳細に測定しました。
加えて、眼底画像から視神経乳頭の傾き、回転、面積、長径・短径を評価し、PICC眼と対側眼を統計学的に比較しました。解析では多重比較による影響を抑えるための補正も行われています。
結果
乳頭周囲脈絡膜空洞症(PICC)のある眼では、
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ブルッフ膜開口部(BMO)が小さく、より楕円形である
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強膜フランジ開口部(SFO)が大きい
-
BMOとSFOの位置のずれが大きい
-
視神経乳頭の傾きが強い
といった特徴が認められました。一方で、眼球の長さ(軸長)や視神経乳頭の回転については、PICC眼と反対側眼の間に有意な差は認められませんでした。
これらの結果は、PICCが眼球全体の伸長とは独立して、視神経乳頭周囲の境界組織が引き伸ばされるような局所的な構造変化と深く関係していることを示しています。
結論
片側性乳頭周囲脈絡膜空洞症(PICC)を対象とした本研究から、軸長が同程度であっても、PICCのある眼では視神経乳頭の深部構造および形態に明らかな左右差が存在することが明らかになりました。
PICCは、近視眼に特有な視神経乳頭周囲の構造リモデリングと強く関連しており、近視に伴う視野異常や緑内障様変化の理解、さらには鑑別診断において重要な手がかりとなります。
清澤コメント
サムネイルのようにこういう変化があることは把握してますが、説明のの詳細はいまだに私の腑に落ちてはいません。乳頭周囲脈絡膜空洞症(PICC)は、近視眼における視神経乳頭周囲の力学的変化を反映する重要な所見とされす。緑内障との鑑別には、OCTによる左右比較と深部構造の評価が不可欠です。ブルッフ膜開口部とは:視神経乳頭(optic nerve head)においてブルッフ膜(脈絡膜内側の基底膜)が途切れている点を 開口部(BMO) と呼びます。視神経繊維束が眼球を出る最内側の境界として、近年の OCT ベースの緑内障評価の新しい基準点になっていると説明されています。SFOの位置と定義(直感的な理解)として視神経線維束は、網膜 → BMO(ブルッフ膜開口部) → 篩状板 → SFO(強膜フランジ開口部) → 視神経という順に通過します。SFOは、篩状板を取り囲む強膜の“縁(フランジ)”が作る出口の大きさ・形と考えると分かりやすい概念です。OCTの深部構造解析(Enhanced depth imaging など)で議論されます。
BMOとの違い(患者説明にも使いやすい対比)
| 構造 | 主な組織 | 役割 |
|---|---|---|
| BMO | ブルッフ膜 | 網膜側の“入口” |
| SFO | 強膜(+篩状板支持部) | 眼球外への“出口” |
本文の出典
Akiyama K, Aoki S, Shirato S, Honjo M, Aihara M, Saito H.
Comparison of Deep Optic Nerve Head Structures and Optic Disc Morphology in Unilateral Peripapillary Intrachoroidal Cavitation.




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