近視予防に新たな選択肢?多様なセグメント焦点ぼけ最適化レンズ(DSDO)の有効性を検証
清澤コメント:日本では治験が成功せず、セグメント焦点ぼけ最適化レンズ(DSDO)は市販されるていないと認識しています。現在近視進行予防に可能な方法は、戸外活動時間確保、オルソケラトロジー、低濃度アトロピンの3つです。
背景
近年、世界的に子どもの近視が急増しています。特に東アジア地域では、都市化と学業負担の増大に伴って、屋外活動時間が減少し、近視の低年齢化と進行の加速が顕著です。近視は一度発症すると進行性であり、強度近視(−6.00D以下)に進むことで将来的に網膜剥離、緑内障、黄斑変性などの視機能障害につながるリスクが高まります。そのため、近視の進行を抑制する研究だけでなく、「そもそも発症を遅らせる」ための介入が注目されています。
これまでにも、オルソケラトロジーや多焦点ソフトコンタクトレンズ、周辺ぼけ制御型眼鏡などが実用化されていますが、近視の“発症”そのものを防ぐという観点では十分なデータがありませんでした。今回ご紹介する研究は、中国・北京大学の研究グループが実施した「多様なセグメント焦点ぼけ最適化(Diversified Segmental Defocus Optimization Lenses;DSDO)レンズ」の有効性を検証したランダム化臨床試験であり、さらにこのDSDOレンズに0.01%アトロピン点眼を併用した場合の効果も比較しています。
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研究の要点と結果
この研究は、2023年11月から2024年12月にかけて、北京大学人民病院眼科で実施された1年間の無作為化二重盲検臨床試験です。対象となったのは、近視でない(SER: +0.00〜+1.00D)5〜12歳の子ども450人。参加者は3群に分けられました。
- DSDO群:DSDOレンズ+プラセボ点眼薬
- DSDOA群:DSDOレンズ+0.01%アトロピン点眼薬
- 対照群:通常の単焦点レンズ+プラセボ点眼薬
主要評価項目は以下の2点です:
* 近視(SER ≤ −0.50D)を新たに発症した子どもの割合
* 年間で近視進行が速かった(−0.50D以上の近視進行)子どもの割合
1年間の結果として、試験を完了した370人のうち、近視の累積発生率は:
* DSDO群:5.8%(7/121人)
* DSDOA群:4.8%(6/125人)
* 対照群:15.3%(19/124人)
また、−0.50D以上進行した「近視が速い」子どもの割合は:
* DSDO群:15.7%(19人)
* DSDOA群:9.6%(12人)
* 対照群:42.7%(53人)
いずれの比較においても、DSDOおよびDSDOAは対照群に比べて統計的に有意に近視発症や進行の抑制に効果がありました(P値 < 0.05)。ただし、DSDO単独とDSDO+アトロピンの間には有意な差は見られませんでした。
この結果から、「DSDOレンズは0.01%アトロピン点眼を併用しなくても、単独で近視予防効果を有する」ことが示唆されました。日常生活に無理なく取り入れられる点から、DSDO眼鏡は近視を発症していない小児に対する新たな予防選択肢となり得ると考えられます。
参考文献
Lu Y, Yang X, Zhou J, et al. Randomized Clinical Trial of Diversified Segment Defocus Optimization Lenses for Myopia Prevention. JAMA Ophthalmol. Published online July 10, 2025. doi:[10.1001/jamaophthalmol.2025.2072](https://doi.org/10.1001/jamaophthalmol.2025.2072)
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