弱視という現象
三~四歳までの幼い子どもに「眼帯は厳禁」という事実をご存じだろうか。
幼い時期に視界を遮ると、視力の成長が妨げられる恐れがあるからだ。視力が成長しない、というのは、俗にいう「目が悪くなる」、つまり「メガネが必要になる」という意味ではない。
「たとえメガネで矯正しても良い視力が得られない」という意味だ。眼球そのものは正常でも、眼で光をとらえて脳へと情報を伝え、脳で情報を処理する力が育たないからである。
こうして視力が低下した状態を「弱視(医学的弱視)」という。
赤ちゃんの視力
実は赤ちゃんでも、眼球の構造自体は大人と同程度に成熟している。一方、網膜に映った映像を脳で認識するしくみは、年齢とともに成長する。
生まれたばかりの赤ちゃんの視力は〇・〇一程度とされ、明るいか暗いかの程度しか認識できない。だが年齢とともに視力はゆっくりと上がり、六歳で大部分が大人と同じ視力に到達する(1・2)。
視力は、ものを見ることによって成長する。目から脳に繰り返し情報が伝わり、これが刺激となって、目に映った世界を脳で認識する力が身についていくのだ。
視力の成長を妨げる要因が、眼球それ自体にあることもある。例えば、近視や遠視があると、クリアな像が網膜に映らないため、見えたものを脳で認識する力が育たない。
このまま視力が完成してしまうと、将来的にメガネを使ってもクリアな視界は得られない。幼い頃にメガネを使って矯正し、はっきりした映像を脳に入力することで弱視を防ぐ必要があるのだ。
視力は成長とともに身につける能力
斜視も、程度によっては弱視の原因になる。斜視とは、ものを見つめるときに左右の目が同じ方向を向かず、片方の目だけが異なる方向に向く状態のことだ。
このとき脳は自然と、斜視があるほうの目からの情報を利用せず、健康な目からの入力で世界を認識する。ものが二重に見えるのを防ぐためだ(2)。
結果的に、斜視があるほうの目が弱視になってしまうのである(3)。最初は歩くことも話すこともできなかった赤ちゃんが、歩行と言語を徐々に獲得するのと同じように、視力もまた成長とともに徐々に身につける能力である。
その成長過程においてもっとも重要な局面は乳幼児期にあり、この機を失えば取り返しがつかなくなるのだ。
【監修】沼尚吾(京都大学医学部附属病院眼科・一般社団法人MedCrew代表理事)
【参考文献】
(1)糖尿病ネットワーク「No.16. 子どもの目の病気」
https://dm-net.co.jp/metokenko/feature/16/
(2)公益社団法人日本眼科医会「子どもの弱視・斜視」
http://www.gankaikai.or.jp/health/betsu-003/
(3)日本弱視斜視学会「弱視」
https://www.jasa-web.jp/general/medical-list/amblyopia
(本原稿は、山本健人著『すばらしい医学』からの抜粋です)
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