小児の眼科疾患

[No.2889] 「コロナ禍において顕在化した課題 児童生徒の視機能と環境について」柏井真理子氏の講演要旨紹介

「コロナ禍において顕在化した課題 児童生徒の視機能と環境について」柏井真理子氏の講演

清澤のコメント:日本医師会報2024.9(648-652)に収載された柏井真理子氏の講演「コロナ禍において顕在化した課題 児童生徒の視機能と環境について」の要旨を作成し採録する。最近の近視に関するコンセプトが偏りなく話されている印象を受けた。

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この講演は、コロナ禍で顕在化した児童生徒の視機能と環境に関する問題が取り上げられています。まず、視覚情報の重要性について触れ、人間は80%の情報を眼から得ていることを指摘し、視力の維持が長寿社会において重要であると強調しています。特に幼少期からの視力ケアの必要性が述べられています。

講演の中では、学校健診のデータに基づき、近年の児童生徒の視力低下が顕著であることが示され、特に裸眼視力1.0未満の児童生徒の割合が年々増加していることが報告されています。日本眼科医会の調査によると、視力低下の原因は主に近視であり、この問題はアジアを中心に世界的にも深刻なものとなっています。特に2050年には世界の人口の半数が近視になると予測されており、近視は公衆衛生上の大きな課題とされています。

近視の主な原因としては、眼の前後径が伸びる「軸性近視」が挙げられ、遠くを見ると像がぼやける状態になります。また、近業作業(近くを見る作業)が近視の進行に関与しているとされており、特に30cm以下の距離での作業や長時間の近見作業がリスクを高めます。近視が進行すると、将来的に緑内障や網膜剥離などの深刻な眼疾患に罹患するリスクが高まるため、早期からの予防が重要です。

  • さらに、コロナ禍では学校の休校や外出自粛により、児童生徒は自宅での近見作業が増加し、屋外活動が減少しました。この結果、近視の進行が急速に進んだことが懸念されています。中国や香港ではコロナ禍での近視の増加が報告されており、日本でも視力低下が顕著になった事例が述べられています。京都府立医科大学の研究(中村 葉他:COVID-19 蔓延下に おける学童の近視進行:(KRES).日眼会誌 20211251093- 1098.)でも、コロナ禍における児童生徒の屈折度数と眼軸長の変化が明確に悪化したことが示されています。

また、GIGAスクール構想により日本の学校では11台のタブレットが配布されましたが、デジタルデバイスの使用は近視進行のリスクを伴います。そのため、正しい使用法を児童生徒に指導し、視距離の確保や連続使用の制限、夜間の使用制限が推奨されています。

最後に、柏井氏は屋外活動の重要性を強調し、12時間以上の屋外活動が近視の進行を抑えることができると述べています。また、政府レベルでの対策や学校での視力保護のための取り組みが不可欠であり、社会全体で児童生徒の視力を守るための環境整備が求められています。

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