近視実態調査がまとめられており、そこには近視児童の増加が認められます。それを柏井真理子先生がサマライズされて日本の眼科96:2号に発表されました。その概要は次の通りです。
文部科学省 児童生徒の近視実態調査について
柏井 真理子(日本眼科医会 副会長,文部科学省 元近視実態調査委員会委員)
はじめに
近視の増加と若年化が世界的に問題となっており、特に東アジアでは深刻な状況にあります。日本においても裸眼視力0.3未満の小学生の割合がこの30年で約3倍に増加しました。GIGAスクール構想の推進やコロナ禍による外出制限により、児童生徒の近視発症リスクはさらに高まっています。このような背景のもと、文部科学省(文科省)は眼科医療関係者の要望を受け、本邦初の児童生徒を対象とした近視実態調査を実施しました。
1. 文科省近視実態調査の概要
(1) 経緯・目的
令和3~5年度にかけ、児童生徒の視力低下の詳細を把握するために実施されました。
(2) 調査内容
9都道府県(北海道・青森・宮城・茨城・東京・京都・福岡・熊本・宮崎)の29校に在籍する約8,600~8,900人を対象に調査し、そのうち約5,200人を3年間追跡しました。
(3) 調査項目
- 屈折検査・眼軸長測定
- 学校健康診断のデータ(裸眼視力、眼鏡の使用状況、身長・体重・性別など)
- 生活習慣に関する児童生徒向けアンケート
- 学校生活に関する学校向けアンケート
2. 実施方法
調査は各都道府県の眼科医会および日本視能訓練士協会の協力のもと、全国29校の学校現場で眼科医と視能訓練士により実施されました。
3. 調査結果
令和6年7月、文科省ホームページに調査報告書および啓発資材が発表されました。
(1) 裸眼視力の変化
小学1年生の約80%が視力1.0以上でしたが、学年が上がるにつれ減少し、中学3年では約40%に低下。一方、視力0.3未満の児童生徒は小学1年で1%、中学3年では約30%に増加し、地域差も見られました。
(2) 近視の頻度
視力1.0未満の児童のうち、近視の割合は以下の通りでした。
- 裸眼で0.9未満:60.0%
- 裸眼で0.7未満:84.8%
- 裸眼で0.3未満:94.5%
また、小学1年で近視の割合は17.3%でしたが、学年が上がるごとに増加し、中学3年では62.6%に達していました。
(3) 眼軸長の変化
小学1年生では男子23.01mm、女子22.30mmでしたが、小学6年では男子24.21mm、女子23.86mmと成人に近い長さとなり、中学3年では男子24.66mm、女子24.17mmと成人の平均値を超えました。
(4) 近視の進行
3年間追跡した約5,200人の分析では、特に小学1~4年での近視の進行が顕著でした。小学1年では12.43%だった近視の割合が、小学3年では35.87%に増加しました。
(5) 生活習慣との関連
- 近見作業時間
「学校以外での勉強や読書時間が90分以上」の児童は、近視の新規発症リスクが高かった。 - 屋外活動時間
「休み時間に積極的に外に出る」児童は、視力低下リスクが低かった。
休日に2時間以上屋外で過ごす場合、30分未満と比べて視力低下が抑制される傾向が見られた。
まとめ
本調査により、日本の児童生徒の視力低下の実態が明らかとなり、近視進行には近見作業の時間と屋外活動が大きく影響することが示されました。文科省はこれを受け、近視の発症予防・進行抑制に向けた啓発リーフレットを作成し、学校教育の現場での実践を推進しています。今後、調査結果を基にさらなる有効な近視対策を検討し、児童生徒の目の健康を守る取り組みが求められます。
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