小児の眼科疾患

[No.3947] 頭部外傷で死亡した児に対し、死後にスキャニングレーザー検眼鏡(SLO)を用いて広角眼底撮影を実施;

背景

小児虐待による頭部外傷(Abusive Head Trauma: AHT)は、眼底出血を伴うことが多い病態です。眼底出血の分布や程度は外傷のメカニズムを推定する重要な手掛かりですが、生前の患児では広角眼底撮影によってその所見を客観的に記録できます。しかし死亡例では従来、病理組織標本が必須とされてきました。ただし、標本作製の過程でアーチファクト(人工的な変化)が生じ、所見の客観性が損なわれることもありました。本研究では、死後に広角眼底撮影を行い、その有用性を検討した初めての症例報告が示されています。


目的

虐待が疑われる頭部外傷で死亡した児に対し、死後にスキャニングレーザー検眼鏡(SLO)を用いて広角眼底撮影を実施し、その有効性を病理所見と比較して検討することです。


材料と方法

対象は、4歳女児で、頭部外傷により急性硬膜下血腫を生じ死亡した症例です。解剖前にSLOによる死後広角眼底撮影を行い、眼底出血の分布を確認しました。その後の病理解剖にて頭蓋内損傷を調べ、眼球の病理組織学的検索も実施しました。研究は三重大学医学部倫理委員会の承認を受けています。


結果

SLOによる死後眼底撮影では、右眼の後極部および周辺網膜に眼底出血が確認されました。病理解剖では急性硬膜下血腫を伴う頭蓋内損傷が証明され、眼球の病理検査では内境界膜下や網膜の内核層から外核層にかけての出血が確認されました。最終的に死因は「頭部外傷による急性硬膜下血腫」と判定されました。


結論

SLOを用いた広角眼底撮影は、死後でも眼底出血を記録でき、病理所見を補完する有効な方法であることが示されました。特に従来の病理標本作製で生じるアーチファクトの影響を減らし、より客観的な証拠を提示できる可能性があります。今後は症例を蓄積し、法医学的にAHT診断へ応用する手法として確立していくことが期待されます。


清澤のコメント

乳幼児虐待の診断は、医学と法学が交差する非常に繊細な領域です。眼底出血は重要な証拠となりますが、生前の撮影だけでなく、死亡例でも広角眼底写真を残すことが可能になった点は注目に値します。特にこの報告では、病理組織標本の限界を補う形で画像が役立ちうることを示しています。ただし、実際の臨床現場で死後に眼底撮影を行う体制を整えることは容易ではありません。今後、こうした研究の積み重ねにより、虐待事例の客観的診断をさらに確実にし、社会的な子どもの安全につながっていくことを期待します。


📖 出典

Oshima T, Yoshikawa H, Sekijima H, Kotani H. First Case Report of the Use of Postmortem Wide-Angle Fundus Photography in Abusive Head Trauma. Am J Forensic Med Pathol. 2025;00:000–000. doi:10.1097/PAF.0000000000001055

メルマガ登録
 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

最近の記事

  1. 頭部外傷で死亡した児に対し、死後にスキャニングレーザー検眼鏡(SLO)を用いて広角眼底撮影を実施;

  2. 幼児虐待疑い例における超広角眼底撮影OPTOSの活用

  3. 未熟児網膜症を非接触で超広角に撮影する新技術 ― Optosによる挑戦;論文紹介①