小児の眼科疾患

[No.3974] 映画「揺さぶられる正義」―揺さぶられっ子症候群事件をめぐる記録

揺さぶられっこ症候群に詳しい脳外科医の藤原先生が毎日新聞の『「弁護士記者」の贖罪と覚悟』という毎日新聞の記事を教えてくださいました。このところこの映画の公開に関連した記事がこのほかにもいくつか出ています。

映画「揺さぶられる正義」―揺さぶられっ子症候群事件をめぐる記録

① 映画の概要

弁護士資格を持つ関西テレビ記者・上田大輔氏が長年の取材を重ねて制作したドキュメンタリー映画「揺さぶられる正義」の本予告が公開されました。本作は、過去に彼が報道した「検証・揺さぶられっ子症候群」シリーズ(「ふたつの正義」「裁かれる正義」「引き裂かれる家族」)を基に、新たな取材を加えて再構成したものです。

映画は、揺さぶられっ子症候群(SBS: Shaken Baby Syndrome)をめぐる司法・医療・報道の葛藤を真正面から描いています。


② SBS事件と社会的背景

2010年代、日本では赤ちゃんを激しく揺さぶる虐待が原因とされるSBS疑いの事件が相次ぎました。医師たちは子どもの命を守ろうと診断を行う一方、刑事弁護人や法学者たちは「事故や病気の可能性」を訴え、冤罪の可能性を追及しました。

「虐待を防ぐ正義」と「冤罪をなくす正義」が鋭く対立する中で、無罪判決が次々に出るという異例の展開となり、司法と医療の双方に大きな議論を呼び起こしました。


③ 映画が提示する視点

上田記者は、SBSで加害者とされた家族に向き合い、その声を丁寧に拾い上げています。本作は「報道が人を救うのか、傷つけるのか」という根源的な問いを投げかけるものであり、同時に「報道する側が自らの過去をも検証する」稀有な試みです。

実際、ドキュメンタリー監督の大島新氏は「自社の過去の報道姿勢を真っ向から批判し、自身にも刃を向けている。こんな記者が本当にいるのか」と評価しています。


④ 著名人からの反響

公開前に映画を観た評論家やジャーナリストから多くの声が寄せられました。

  • 弁護士・西愛礼氏:「真実は神と被告人だけが知っている。見えない真実と向き合う姿勢を描いた」

  • 小説家・一穂ミチ氏:「報道そのものが裁きになる現状を突きつけられた」

  • 弁護士・亀石倫子氏:「それぞれが信じる正義のもとで闘う人々の物語」

  • 脚本家・井上由美子氏:「フィクションでは到達できない頂。家族の重みに涙した」

  • ジャーナリスト・浜田敬子氏:「報道が冤罪を生み出していないか、習慣そのものが問われている」

このように、医療関係者・法曹関係者・文化人まで、多方面から「正義とは何か」という普遍的な問いかけとして受け止められています。


⑤ 公開情報

「揺さぶられる正義」は

2025年9月20日より東京・ポレポレ東中野、大阪・第七藝術劇場を皮切りに全国公開予定です。


出典

  • 「弁護士資格を持つ記者が“揺さぶられっ子症候群”の事件に向き合う記録映画、予告解禁」顔子記事

  • 毎日新聞記事


清澤院長のコメント

揺さぶられっ子症候群(SBS)は眼科でも重要なトピックです。眼底出血などの所見が虐待診断の根拠とされてきましたが、その所見が必ずしも虐待の証拠でないこともわかってきています。映画「揺さぶられる正義」は、医師としての「子どもを守る正義」と、法律家の「無実を守る正義」が交錯する場面を私たちに突きつけています。

眼科医として診断や現在進行中の某裁判の弁護側意見書提出医として関わる立場でも、この作品を通して「私たちの診断がどのように社会で受け止められ、どのような影響を及ぼしているのか」を考える契機にしたいと思います。

此の判決の例のように明らかな別の出血原因を弁護側が提出出来て、無罪の判決にたどり着けたという例では、それはそれで良い(?)のですが、そもそもその様に例外的な原因を発掘して指摘する責任は弁護側が負うべきものなのか?と考えさせられます。そもそも、最近の数々の事例を伺うと、揺さぶられっこ症候群のトリアス(3条件)として、それに眼底出血を含めるという元の学説自体に、過剰な言い過ぎが有ったのではなかったかと私は疑わされるものを感じています。

追記;

映画「揺さぶられる正義」と報道の課題

――あたらしい毎日新聞の記事をもとに――

近年、乳幼児揺さぶられ症候群(SBS)をめぐる裁判で無罪判決が相次いでいます。かつて「硬膜下血腫・眼底出血・脳浮腫」が揃えば虐待とされたこの理論は、世界的には根拠が疑問視され始めています。それにもかかわらず、日本では多くの親が逮捕・起訴され、実名や顔写真が報道されてきました。結果として、子どもを失い、兄弟と引き離され、さらに冤罪で逮捕されるという「三重の悲劇」に苦しむ家族が生まれたのです。

この問題に迫るのが、弁護士資格を持つ記者・上田大輔さんが監督した映画「揺さぶられる正義」です。関西テレビで社内弁護士として働いていた上田さんは、やがて「法律の知識を生かした報道」を志し記者に転身。SBS検証プロジェクトの活動に密着し、取材対象者の不信感に直面しながらも、自らの過去もさらけ出し、8年にわたって追い続けました。

映画は、虐待を防ぐ「正義」と冤罪をなくす「正義」がぶつかり合う現場を描きます。SBS理論を支持してきた医師が「最終的に子どもを取る」と語る一方で、冤罪で人生を壊された家族の声も浮かび上がります。さらに作品は、警察発表をほぼ鵜呑みにし、逮捕時の実名報道や隠し撮りを続けてきたメディアの体質そのものに切り込みます。

上田監督は「1件でも匿名報道に変え、報道を見送った事例をつくった」と語ります。しかし「どうすれば報道のあり方を本当に変えられるのか」という問いには、いまだ答えが出ていません。

本作は、単なる冤罪事件の記録ではなく、司法と報道の構造的な問題を映し出す試みです。贖罪と覚悟を掲げたこの映画が、視聴者や報道業界にどのような波紋を広げるのか注目されます。

(出典:毎日新聞「逮捕時犯人視報道は変えられるか 弁護士テレビ記者が自ら問う冤罪の構造『揺さぶられる正義』」)

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