小児の眼科疾患

[No.4175] Shaken Baby Syndrome(SBS)における両眼網膜出血の発生頻度

Shaken Baby Syndrome(SBS)における両眼網膜出血の発生頻度

概要

Shaken Baby Syndrome(SBS:乳児揺さぶられ症候群)や虐待性頭部外傷(AHT:Abusive Head Trauma)では、強い揺さぶりや衝撃により、脳や眼に出血が起こることがあります。その中でも網膜出血(retinal hemorrhage)は、診断の手がかりとなる重要な眼所見のひとつです。


主な報告

複数の研究報告によれば、SBS症例における網膜出血の出現頻度は**おおむね53〜80%とされています。

また、そのうちの
両眼性(両目に出血がある)割合は62.5〜100%**と報告されています【PubMed 19081701】。

別の報告(Retina Today誌)では、虐待性頭部外傷(AHT)における網膜出血は約85%の症例で確認され、その多くが両眼性であるとされています。

さらに、米国国立医学図書館(NCBI Bookshelf)の記述では、SBSでは「両眼性・びまん性・多層性の網膜出血」が典型的な所見とされています。


解釈と注意点

上記の「両眼性」の数字は、「網膜出血があった症例の中で、両眼に出血が見られた割合」を示しています。

つまり、母数は「SBS疑い症例すべて」ではなく、「網膜出血が確認された症例」に限られることに注意が必要です。

また、網膜出血がまったく見られない症例や、片眼のみに出血がみられる症例も存在します。したがって、

片眼にしか出血がないからといって、SBS(虐待性頭部外傷)の可能性が否定されるわけではありません。

網膜出血の有無や範囲、層の深さ(網膜内・前網膜・硝子体下など)、さらに他の臨床所見や頭部画像検査の結果を合わせて総合的に評価することが重要です。


まとめ(一般向け)

SBS(乳児揺さぶられ症候群)では、目の奥(網膜)に出血が起こることが多く、半数から8割程度の症例で見られます。

そのうちの多く、6割からほぼ全例近くが両目に出血しているという報告もあります。

ただし、片目だけに出血が見られる場合でもSBSを否定できるわけではなく、慎重な診断が必要です。

出血の広がりや層の深さなど、眼底の詳細な観察が診断の助けとなります。


参考文献

  1. Morad Y, et al. Retinal hemorrhage in abusive head trauma. Neurosurg Focus. 2008;25(5):E2. [PubMed PMID: 19081701]

  2. Levin AV. Retinal Findings in Abusive Head Trauma. Retina Today. 2016 Mar.

  3. National Center for Biotechnology Information (NCBI). Shaken Baby Syndrome / Abusive Head Trauma. [Bookshelf ID: NBK560777]

  4. Binenbaum G, Forbes BJ. The Eye in Child Abuse. Pediatr Clin North Am. 2009;56(2):373–387.

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