社会・経済

[No.3788] 米国医師会雑誌、第二次大戦直前の論文を再掲載 「食料と戦争」の中身と狙い

米国医師会雑誌、第二次大戦直前の論文を再掲載

「食料と戦争」の中身と狙い

(日刊ゲンダイ2025・7.31(30日発行) 清澤の取材協力記事です)

=医療関係者に緊急時での食料安全保障の問題意識の共有か

 世界4大医学雑誌のひとつに数えられるJAMA(米国医師会雑誌)オンライン版(7月24日公開)が85年前に公開の論文を再掲載した。タイトルは「食料と戦争」。欧州で第二次大戦が勃発し、日米が参戦する直前に公開された論文だ。ロシアのウクライナ侵攻が泥沼化しNATO(北大西洋条約機構)域内での戦争拡大がささやかれ、イスラエルによるパレスチナやイランへの攻撃、タイ・カンボジアの紛争、中国による台湾侵攻予測、など世界中に戦争の火種が広がるなか、なぜこのような論文を再掲載されたのか?

 「食料と戦争」は1940年8月17日付けの同誌に公開された。当時はドイツがポーランドに侵攻して第二次世界大戦が始まりほぼ1年が経過しており、英国とドイツの空軍が英国の制空権をめぐり激しく戦った「バトル・オブ・ブリテン」の真っ最中。米国と日本はまだ第二次世界大戦に参戦していなかったが、日独伊三国同盟締結直前で、米国による原油や鉄鋼等の輸出規制が強化されていた時期だった。

 論文では、緊急時には軍隊や民間人の食料供給を維持することが国のリーダーとして需要な課題であること、第一次世界大戦では多くの国が食糧委員会を早期に設置したが戦後の検証でいくつかの政策は非効率で無駄だったこと、オランダ、デンマーク、ドイツでは不適切な栄養管理が健康問題を引き起こしたこと、英国では肉の消費を抑えてビタミンB1入りのパンを導入するなど食糧供給を管理する具体策が取られたこと、徴兵初期には兵士の栄養管理体制が不十分で改善に時間がかかったこと、国民全体の栄養管理には複数の機関の調整が必要であり科学的な栄養学の視点が必要であること、などが述べられている。

 なぜ、このような内容の論文を世界的医学雑誌がいま、再掲載したのか? 

 米国眼科学会会員で「自由が丘清澤眼科」(東京・目黒区)の清澤源弘院長が言う。

  「論文は、戦時下における先駆的知見を示したとして高い評価を得ている論文です。2025年は発表から85年目となる節目の年であり、掲載はその普遍的価値を再評価す

ることを狙ったのだと思います。」

 実際、論文のインパクトは強く、戦時下の食料供給は救急医療に匹敵する重要課題であることを医療関係者に認識させたばかりでなく、ビタミンA不足が夜盲症や結膜乾燥

症などの病気を招いた事実をもとに栄養不足や欠乏症の予防研究や国の機関による推奨栄養摂取量の策定のきっかけとなるなど、大きな影響を残した。また、戦後の学校給食

制度や栄養教育プログラム構築の基礎となったともいわれている。

 むろん、掲載に当たって、「現在の世界情勢における問題意識を共有したい、との思いもあったはず」と清澤院長は言う。

「新型コロナ、ウクライナ戦争、気候変動などによる食料安全保障の問題が浮上するなかで、過去の戦争経験から教訓を得る必要性が高まっています。これから直面するかも

しれない医学・公衆衛生の課題を考えるために『食料と戦争』という歴史的論文を紹介したのでしょう」

飢餓は決して他人事ではない

 国連の「世界の食料安全保障と栄養の現状報告書」によると、2023年に飢餓に直面した人は世界で最大7億4570万人で、世界では11人に1人、アフリカでは5人

に1人という。飢餓は決して他人事ではなく、いつ起きてもおかしくない問題だ。

 21世紀に先進国間で起こるはずがない、と思われてきた本格的な戦争がウクライナで起きた。しかも、いまでは欧州に飛び火する可能性さえささやかれている。

 実際、ドイツ連邦情報局のブルーノ長官は昨年10月の連邦議会公聴会で、ロシアが2030年までに、北大西洋条約機構(NATO)への攻撃を行うための能力を備える可能

性があると警告した。

ブルームバーグは6月26日配信で、今のところNATO領内での戦争の可能性は低いが、ロシアの軍幹部や高官の一部は、帝国復活を目指す野心はウクライナ

で終わらないと公言し、ルッテNATO事務総長はロシアが5年以内にNATO攻撃を考えられるような体制が整う可能性あると示唆したと報じている。

 米不足で大騒ぎになる日本の食料安全保障はあまりに心もとない。日本も食料安全保障問題を真剣に議論し、準備する必要があるのではないか。

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