社会・経済

[No.4447] 退職代行「モームリ」経営者逮捕が示したもの

退職代行「モームリ」経営者逮捕が示したもの

― 「顔を合わせずに辞めたい」時代の行き先を考える ―

2026年2月、退職代行サービスとして広く知られていた**退職代行モームリを運営する株式会社アルバトロス**の経営者夫妻が、弁護士法違反(非弁行為)の疑いで逮捕されたというニュースが報じられました。

退職代行業界の中でも知名度の高かった事業者のトップが逮捕されたという事実は、この分野全体に少なからぬ衝撃を与えています。

退職代行とは、従業員本人に代わって勤務先に「退職の意思」を伝えるサービスです。上司と顔を合わせることがつらい、強い引き留めが予想される、精神的に限界に近い――そうした事情を抱える人にとって、一種の“逃げ道”として広がってきました。一方で、企業側から見れば「本人と一度も話さないまま退職が決まる」ことへの反発や違和感が強かったのも事実です。

今回問題とされたのは、退職の意思を伝える行為そのものではありません。報道によれば、弁護士資格を持たない事業者が、依頼者を弁護士に紹介し、その対価として金銭を受け取っていた点が「非弁行為」にあたる可能性があると判断されたことが、逮捕の核心でした。

つまり、「退職代行は違法」という単純な話ではなく、法律業務と一般業務の境界線を越えた事業構造が問われた事件と言えます。

業界の代表的存在だった事業者の経営者が逮捕された以上、この会社が従来通り事業を継続することは相当困難になると見られています。そして同時に、「会社の人と直接会わずに、できるだけ摩擦なく辞めたい」と願う従業員は、今後どのような道を選べばよいのか、改めて考える必要が出てきました。

現実的な選択肢の一つは、弁護士や労働組合が関与する正式なルートです。弁護士に依頼すれば費用は高くなりますが、未払い賃金やハラスメントが絡む場合も含め、法的に正当な代理行為が可能です。また、一定の条件を満たしたユニオン(合同労組)による団体交渉も、法律上認められた方法です。

もう一つ重要なのは、「必ず第三者を介さなければ辞められない」状況そのものを、社会全体で減らしていく視点でしょう。退職の意思を伝えた途端に強い圧力がかかる、感情的な引き留めが行われる――そうした職場文化が温存されている限り、退職代行への需要は形を変えて残り続けます。

医療の現場でも、患者さんが「本当はつらいのに言い出せない」状態に陥ることがあります。言葉にできない背景には、恐れや過去の経験、関係性の歪みが存在します。退職代行の問題も、単なるビジネスや法律の話ではなく、人が正面から対話できなくなっている社会の一断面と見ることができるのかもしれません。

今回の事件は、退職代行業界にとっての転換点であると同時に、働く側・雇う側の双方に「どうすれば、もっと穏やかに別れられるのか」を問い直す契機でもあります。

顔を合わせずに辞めたい人が存在する現実を直視しつつ、法にかなった仕組みと、対話を拒まなくて済む職場環境の両立が、これから求められていくのでしょう。

追伸:

「使われた側」が語ったモームリ事件——逮捕報道で腑に落ちた違和感

退職代行サービス モームリ の経営者が、弁護士法違反(非弁行為)容疑で逮捕されたという報道を受け、「使われた側」の経営者が抱いていた違和感が、ようやく言葉として整理された——そんな印象を受ける記事がありました。

登場するのは、従業員約50人規模の事業所を経営する56歳の男性(Yさん)。彼は約半年前、前日まで通常勤務していた20歳の女性社員が、突然モームリを通じて退職の意思を伝えてきた経験を持ちます。

電話口の担当者は、本人ではなく、淡々と台本を読み上げるような口調で「本日から出勤しない」「有給休暇を消化する」「本人や家族に連絡してはならない」「私物は宅配で送れ」などを一方的に告げました。

Yさんが強く感じたのは、「これは交渉ではないと言いながら、実質的には交渉そのものではないか」という違和感でした。退職日はいつか、有給休暇をどう扱うか、私物や制服をどう返却するか——これらは本来、法律に基づき、当事者同士、あるいは弁護士・労組・特定社労士といった正当な代理人が関わるべき事項です。

さらに決定的だったのは、送られてきた退職届が「モームリ独自の書式」だったこと、そして「有給を認めなければ労基署に相談する」といった文言が添えられていたことでした。Yさんには、それが「法律事務を報酬目的で行っている」ようにしか見えなかったといいます。

今回の逮捕は、運営会社 アルバトロス が弁護士を紹介した「非弁提携」容疑によるものですが、Yさんにとっては、それ以上に「弁護士資格のない第三者が、退職という法的手続きの核心部分に介入していた」点こそが腑に落ちた部分でした。

一方で彼は、自省も忘れていません。「辞めたいと言い出しにくい職場環境を作ってしまった責任は、経営側にある」と認めつつ、だからこそ、正当な交渉の場で「何が問題だったのか」「どう改善すべきか」を知る機会が奪われたことを悔やんでいます。

若者をブラック企業から守る仕組みは確かに必要です。しかし、その善意を掲げながら、法律を踏み越え、当事者双方にとって建設的な対話を断ち切る仕組みが、果たして社会を良くしていたのか——。

Yさんの語りは、今回の逮捕劇を「単なる摘発」ではなく、「制度の意味を考え直す契機」として受け止める視点を与えてくれます。

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