今朝の高円寺・桃園川緑道公園で出会った「エンジェルストランペット」
~美しい花に秘められた目の薬と毒の話~
今朝、高円寺の桃園川緑道公園を歩いていたところ、ひときわ目を引く美しい黄色の大輪の花に出会いました。下向きにラッパのような形で咲くその花は、まるで天使の楽器のように見えます。
この花の名前は**「エンジェルストランペット(Angel’s Trumpet)」、日本ではキダチチョウセンアサガオとも呼ばれます。学名はBrugmansia(ブルグマンシア)**。南米アンデス地方原産の植物で、日本では観賞用として植えられており、都会の公園でも時折見かけることがあります。
大きな花と芳香、そして毒性
この植物の特徴は、なんといっても下向きに咲く直径20cm前後の大きなラッパ状の花。花の色は、白、ピンク、オレンジ、黄色などさまざまですが、私が今朝見かけたのは鮮やかな黄色でした。開花時期は初夏から晩秋にかけて。夕方から夜にかけて、甘い芳香を漂わせるのも特徴のひとつです。
しかし、この美しい花には注意が必要です。花、葉、茎、種子すべてに強い毒性があり、誤って口にすると中毒を起こす可能性があります。特に含まれる成分のひとつ「スコポラミン」や「アトロピン」は、神経系に作用し、幻覚、錯乱、心拍上昇、瞳孔散大などの症状を引き起こします。
実は目の治療にも使われていた?
この植物に含まれるアトロピンやスコポラミンは、医療の世界、特に眼科では非常に重要な薬として知られています。
1. アトロピン点眼薬
アトロピンは、**瞳孔を広げる(散瞳)**作用や、ピント合わせの力(調節)を一時的に麻痺させる作用があります。このため、以下のような目的で使われてきました。
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小児の屈折検査時の調節麻痺(正確な近視・遠視の測定)
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近視進行抑制(低濃度アトロピンとして)
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ぶどう膜炎などの炎症時に虹彩の癒着を防ぐ目的
2. スコポラミン点眼薬
スコポラミンも同様に散瞳や調節麻痺に使われることがあります。アトロピンに比べ作用時間が短いため、より一時的な効果を目的とした場合に用いられます。
このように、猛毒とされる植物の成分が、適切に使用すれば治療薬として活躍しているのは、薬草や天然毒の面白い一面です。
小さなお子さんやペットがいるご家庭へ
この花は観賞用として公園や住宅地でも育てられていますが、小児の誤食やペットの接触により中毒事故が起きるケースもあります。見た目に惹かれて触ったり、香りをかいだりするだけでも油断はできません。花の美しさを楽しみつつも、「触れずに見るだけ」にとどめていただければと思います。
おわりに
高円寺の緑道を彩るこの華麗な花は、その見た目とは裏腹に、医薬品の起源でもあり、危険な毒でもある植物です。私たちの目の健康に関わる歴史を持つことを知ると、少し身近に感じられるのではないでしょうか。
日々の散歩や通勤途中にも、こうした自然と医学の交差点を見つけることができるのは、都会生活の中での小さな楽しみのひとつです。次回はまた、別の花とその「眼科的トリビア」をご紹介します。
📸(この記事の写真:2025年7月16日朝、杉並区・桃園川緑道公園にて撮影)
参考情報
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Brugmansia(キダチチョウセンアサガオ):厚生労働省 薬用植物データベース
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アトロピン点眼薬:日本眼科学会「小児の近視に対する低濃度アトロピン点眼のガイドライン」
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中毒事例:日本中毒情報センター「植物による中毒事例集」
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