一気に寒い季節になりました──暗い森へ水汲みに向かった少女コゼットを思い出します
一気に冬の冷え込みが深まってきました。夕暮れが早く、暗い道を歩くとき、ふとヴィクトル・ユゴー『レ・ミゼラブル』の名場面を思い出します。
クリスマスの夜、幼いコゼットが水汲みのために、真っ暗な森へひとり歩かされるあの場面です。
コゼットは宿屋の主人テナルディエ夫妻に預けられていましたが、扱いはほとんど召使い同然でした。暖かな部屋で過ごすことは許されず、細い腕で重い桶を抱え、凍える森へ向かう姿は、読む者の胸を痛ませます。
その道中で出会うのが、ジャン・バルジャンという男です。コゼットの怯えた目を見て、彼はその境遇を直ちに理解します。静かに寄り添い、手を取り、彼女がほんの少しでも安心できるように導きます。
宿へ戻る途中、バルジャンはコゼットに人生で初めての「自分だけの玩具」──小さな木の人形を買い与えます。そして別れ際、そっと 五フラン銀貨 を彼女の手に握らせました。
少女にとっては、その硬貨は金額以上の意味を持つ“宝物”でした。
しかし、宿へ戻るとテナルディエ夫人がその硬貨を見つけます。
「こんな大金を子どもが持つはずがない」
そう言って、彼女はコゼットの手をこじ開け、五フラン銀貨を乱暴に取り上げます。
コゼットの心に差し込んだ温かい光が、一瞬で消えてしまうような瞬間でした。
ここには、三者三様の深い心情が込められています。
コゼットにとって五フラン銀貨は、大切に思ってくれる大人から初めて受け取った贈り物。
テナルディエ夫人にとっては生活を左右する“現金”であり、貧困が心を荒ませた結果、弱者から奪うことに躊躇がなくなっていた。
ジャン・バルジャンはその行為を見て、コゼットを救い出す決意を固めます。物語が大きく動く場面です。
さて、この“五フラン銀貨”とは実際にはどれほどの価値だったのでしょうか。
現代の感覚で考えると、その重みがより鮮明になります。
■ 五フラン銀貨の価値を“今の日本円”に置き換えると?
19世紀フランスの五フラン銀貨は
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重さ:約25g
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銀純度:約90%
でした。
純銀量は約22.5g。現在の銀相場を
1g=120〜150円 とすると、
素材価値は 約2,700〜3,400円 になります。
しかし、もっと大切なのは “購買力としての価値” です。
当時の五フランは
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パン5〜7斤以上
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貧しい家庭の数日分の食料
に相当する「生活を支える大金」でした。
これを現代日本円の“体感価値”に置き換えると、
およそ1万〜2万円程度の購買力 があったと考えられます。
つまりコゼットは、幼い手に “数日間家族が食べていけるほどの大金” を握っていたのです。
それを女主人が奪い取ったという事実は、貧困と搾取の象徴として、読者の胸に強く刻まれます。
そしてバルジャンは、その一部始終を見たとき、かつて自分が受けた赦しを今度は誰かに与える番だと感じます。それがコゼットを救い出し、養育する決定的な契機になっていきます。
冬の冷気が肌を刺す季節。
暗い森へ歩かされた小さなコゼットを思い浮かべると、今の私たちが感じる寒さや孤独感にも、少し違った意味が重なってくるように思います。
弱い人に手を差し伸べる温かさが、どれほど誰かを救うのか──それを静かに教えてくれる名場面です。
ご希望があれば、この文章を「年末の医院ブログ用に少し季節感を強める」「写真素材と組み合わせる」などの形にも整えられます。



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