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[No.4249] 一気に寒い季節になりました──暗い森へ水汲みに向かった少女コゼットを思い出します

一気に寒い季節になりました──暗い森へ水汲みに向かった少女コゼットを思い出します

一気に冬の冷え込みが深まってきました。夕暮れが早く、暗い道を歩くとき、ふとヴィクトル・ユゴー『レ・ミゼラブル』の名場面を思い出します。

クリスマスの夜、幼いコゼットが水汲みのために、真っ暗な森へひとり歩かされるあの場面です。

コゼットは宿屋の主人テナルディエ夫妻に預けられていましたが、扱いはほとんど召使い同然でした。暖かな部屋で過ごすことは許されず、細い腕で重い桶を抱え、凍える森へ向かう姿は、読む者の胸を痛ませます。

その道中で出会うのが、ジャン・バルジャンという男です。コゼットの怯えた目を見て、彼はその境遇を直ちに理解します。静かに寄り添い、手を取り、彼女がほんの少しでも安心できるように導きます。

宿へ戻る途中、バルジャンはコゼットに人生で初めての「自分だけの玩具」──小さな木の人形を買い与えます。そして別れ際、そっと 五フラン銀貨 を彼女の手に握らせました。

少女にとっては、その硬貨は金額以上の意味を持つ“宝物”でした。

しかし、宿へ戻るとテナルディエ夫人がその硬貨を見つけます。

「こんな大金を子どもが持つはずがない」

そう言って、彼女はコゼットの手をこじ開け、五フラン銀貨を乱暴に取り上げます

コゼットの心に差し込んだ温かい光が、一瞬で消えてしまうような瞬間でした。

ここには、三者三様の深い心情が込められています。

コゼットにとって五フラン銀貨は、大切に思ってくれる大人から初めて受け取った贈り物。

テナルディエ夫人にとっては生活を左右する“現金”であり、貧困が心を荒ませた結果、弱者から奪うことに躊躇がなくなっていた。

ジャン・バルジャンはその行為を見て、コゼットを救い出す決意を固めます。物語が大きく動く場面です。

さて、この“五フラン銀貨”とは実際にはどれほどの価値だったのでしょうか。

現代の感覚で考えると、その重みがより鮮明になります。

■ 五フラン銀貨の価値を“今の日本円”に置き換えると?

19世紀フランスの五フラン銀貨は

  • 重さ:約25g

  • 銀純度:約90%

    でした。

純銀量は約22.5g。現在の銀相場を

1g=120〜150円 とすると、

素材価値は 約2,700〜3,400円 になります。

しかし、もっと大切なのは “購買力としての価値” です。

当時の五フランは

  • パン5〜7斤以上

  • 貧しい家庭の数日分の食料

    に相当する「生活を支える大金」でした。

これを現代日本円の“体感価値”に置き換えると、

およそ1万〜2万円程度の購買力 があったと考えられます。

つまりコゼットは、幼い手に “数日間家族が食べていけるほどの大金” を握っていたのです。

それを女主人が奪い取ったという事実は、貧困と搾取の象徴として、読者の胸に強く刻まれます。

そしてバルジャンは、その一部始終を見たとき、かつて自分が受けた赦しを今度は誰かに与える番だと感じます。それがコゼットを救い出し、養育する決定的な契機になっていきます。

冬の冷気が肌を刺す季節。

暗い森へ歩かされた小さなコゼットを思い浮かべると、今の私たちが感じる寒さや孤独感にも、少し違った意味が重なってくるように思います。

弱い人に手を差し伸べる温かさが、どれほど誰かを救うのか──それを静かに教えてくれる名場面です。


ご希望があれば、この文章を「年末の医院ブログ用に少し季節感を強める」「写真素材と組み合わせる」などの形にも整えられます。

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