清澤のコメント;報道ニュースを含めた「『人の悪意』が介在する出来事の方が、よりひどい心的外傷を与える」というフレーズは医師も記憶すべき事象であるかもしれません。「DSM-5」での、PTSDの診断が限定的になされているのは、その診断名が濫用されるのを防ごうとしたのかもしれません。
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ウクライナの衝撃映像、PTSDに注意!https://www.yomiuri.co.jp/column/naruhodo/20220318-OYT8T50023/
2022/03/22 15:00「人の悪意」がある出来事は、よりひどい心的外傷を与える
新井さんは「地震や台風、水害などの自然災害に比べて、戦争やレイプのように『人の悪意』が介在する出来事の方が、よりひどい心的外傷を与えることが分かっています。戦争は、人が人を殺す行為。それがいつ自分に降りかかるか分からない状態がずっと続くのですから、戦争でPTSD症状が表れても無理はありません」と言います。
ただし、国際的に使われている米国精神医学会の診断基準「DSM-5」では、PTSDの診断を、(1)トラウマ的な出来事を直接体験する(2)他人に起こった出来事をじかに目撃する(3)近親者や親しい友人に起こった出来事を耳にする(4)災害現場で遺体を見つける自衛隊員や消防士のように支援活動の中で直接的に体験する――といった事例に限っており、(4)についてはわざわざ、「仕事に関連するものでない限り、テレビ、映像、または写真による 曝露 には適用されない」とただし書きがあります。
しかし、今年1月に翻訳書が発売された「災害精神医学ハンドブック」(ロバート・J・ウルサノら・編、重村淳・監訳、誠信書房)には、先に挙げた研究のほかにも、以下のような研究が紹介されています。
・もともとPTSD症状がなかったニューヨーク市地域(周辺のニュージャージー州などの各郡も含む)の成人住民では、米国同時テロ後1年のメディア報道によってPTSD症状を新たに発症するリスクが3.4倍だった。
・米国同時テロの前後で、メディア曝露が夢の内容の変化に有意に(=統計学的に意味を持って)関連していることが分かった。攻撃当日に、より多くのメディア曝露を報告した人は、その日以降に深刻で大きな苦痛を反映した夢を見ていた。
・2011年の東日本大震災の災害派遣医療チーム(DMAT)隊員は、救援者としての直接曝露に加えて、テレビの災害報道に4時間以上さらされると、有意に高いストレス症状を報告した。
・米国同時テロのテレビ報道を見ていた、遠く離れた英国ロンドンの子どもたちでさえ、ストレス症状が出て、自分たちの生活が危険にさらされているという認識が高まった。
このように、テロや災害、戦争を直接体験していなくても、メディアから流れる衝撃的な映像で強いストレス症状が表れる人が多いことは、もはや間違いない事実と言っていいでしょう。今後、研究がさらに進めば、PTSDの診断基準の中にメディア視聴によるものが含まれることになるのかもしれません。
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