急ブレーキかかった欧州「2035年EV化法案」。日系メーカーの「二正面戦術」は正しかった
清澤のコメント:自動車業界におけるトヨタの覇権を嫌い、またヒステリックな環境保護派に攪乱されたEUの全自動車EV化の動きも、西欧経済不況を前に頓挫しかけているという事か?慎重に読み解きたい。
3/9(木) 20:00配信記事抄出です
2021年7月14日 欧州委員会は「気候変動対策に関する包括的な法案の政策文書」を発表した。その中で、EUでは2035年以降の新車登録を、いわゆるゼロエミッション車に限定する方針を示した。EUはEVを念頭に置いている。この欧州委員会の提案は、2022年10月に欧州委員会、欧州議会、閣僚理事会の三者間で最終合意に達し、2023年2月14日に立法機関である欧州議会で採択された。 残るは3月7日の閣僚理事会の承認だけだったが、この会合が土壇場で延期される事態となった。ドイツの運輸・デジタル相が、ここへ来て“ゼロエミッション車にe-fuelのみで走行する内燃機関(ICE)車を含めない限り、法案を支持しない”と表明したため。
ドイツが「不支持」の背景…「e-fuel」がなぜキーなのか
e-fuel(脚注)は再エネ由来の水素を用いた合成燃料のこと。燃焼時には二酸化炭素(CO2)を排出するが、一方で生産の過程でCO2を利用するため、CO2の排出量と吸収量を差し引けば実質ゼロとなる。e-fuelであれば、既存のガソリン車やディーゼル車の生産ラインを維持できる。ドイツ自由民主党は、親ビジネスでe-fuelの利用を重視する。
イタリアやポーランドも法案に合意せず
閣僚理事会の採決は「EU27カ国のうち15カ国以上の同意が不可欠」であるとともに、その「15カ国でEUの人口の65%以上を占める」が必要。イタリアも従来のガソリン車やディーゼル車の生産ラインが不要となり、雇用が失われる恐れがあるため反対。ポーランドも反対意見を表明、ブルガリアも棄権。4カ国の人口を合計すると35%を超え、2035年EV化法案は閣僚理事会で否決となる。
根強い「性急なEVシフトへの反対」
基本的に、「2035年EV化法案に慎重な国々は、EVシフトそのものに反対しているわけではない」。EVシフト自体には賛成だが、2035年までというタイムラインに疑義を呈している。 EU内においてEVシフトはメガトレンドだが、タイムラインは慎重な意見が多い。
経済重視派と環境重視派の間で繰り返される論争
EVシフトで失われる可能性がある雇用にも配慮した点が重要。2022年6月の欧州議会議決では、環境重視派が勝ったが、経済重視派の反対も根強い。脱炭素化重視の欧州委員会は、世界的メガトレンドであるEVシフトの覇権を握ろうと野心を燃やすが、調整不足を招いた。
最終的には妥協に達する見通しだが…日系メーカーの「二正面戦術」は現実解だった
調整慣れしているEUだから、最終的には2035年EV化法案は承認されるだろう。すでにEUでは、新車の一割がEV。もう一段の普及を図るためには、充電ポイントなどインフラの整備のほか、中古車市場の育成、低所得国の市場開拓も必要。日系メーカーも、世界的EVシフトを見据えて、車種の開発や生産に勤む。一方で、ハイブリッド(HV)やプラグインハイブリッド(PHV)といった電動車に強みを持ち、その道による脱炭素化も模索し続ける。 EVの増産も図りつつ、HVやPHVといった電動車の道も追及するという日系メーカーの二正面戦術は、やはり現実的な解だったということではないか。
土田 陽介
脚注:エレクトロフューエル
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