眼科医療経済等

[No.3953] 注射薬使用に関連するウイルス感染症について;米国の一般向け注意喚起記事紹介

注射薬使用に関連するウイルス感染症について

近年、世界中で約1,480万人が薬物を(闇で)注射しているといわれています。注射薬の使用は、薬そのものの害だけでなく、細菌や真菌による感染、さらにウイルス感染の大きなリスクを伴います。特に「針の使い回し」など非衛生的な行為は、ウイルスの広がりを助長します。今回は、JAMA(米国医学会誌)がまとめた「注射薬と関連するウイルス感染症」について、一般の方向けにわかりやすくご紹介します。


主なウイルス感染症とその特徴

HIV(エイズウイルス)

米国では毎年約2,300人が、注射薬の使用によって新たにHIVに感染しています。抗レトロウイルス薬による治療を受けると、合併症を減らし、他人への感染を防ぐことができます。今や治療薬の進歩により「感染しても長く健康に生きられる時代」になっていますが、予防が最も重要です。

C型肝炎ウイルス

米国の急性C型肝炎の約半数は注射薬に関連します。C型肝炎は70%が慢性化し、肝硬変や肝がんにつながることがあります。しかし、8〜12週間の抗ウイルス薬で95%が治癒できる時代になりました。

B型肝炎ウイルス

急性B型肝炎の約25%は注射薬に関連しています。そのうち2〜6%が慢性化し、肝硬変や肝がんに進行する可能性があります。治療薬はありますが、生涯服用が必要になる場合もあります。

D型肝炎ウイルス

このウイルスはB型肝炎にかかっている人だけが感染します。B型肝炎との「二重感染」は病気の進行を早め、肝臓がんや死亡リスクを高めます。治療薬はありますが、D型肝炎単独のワクチンはなく、B型肝炎ワクチンで間接的に予防します。

A型肝炎ウイルス

注射薬での感染はまれですが、米国のデータでは患者の約3分の1が注射薬使用の経験を持っています。ほとんどは自然に治りますが、約1%は重い肝不全を起こします。現在、有効な治療薬はなく、ワクチンでの予防が大切です。


検査と予防接種のすすめ

CDC(米国疾病対策センター)は、薬物を注射する人に対し以下を推奨しています。

  • HIV検査を少なくとも年1回

    パートナーと一緒に注射をする人は特に重要です。陰性であればHIV予防薬(PrEP)やカウンセリングも利用可能です。

  • C型肝炎・B型肝炎の抗体検査

    もしB型肝炎が陽性なら、D型肝炎の検査も追加されます。

  • 予防接種

    A型肝炎・B型肝炎のワクチンは、感染を防ぐ有効な手段です。B型肝炎ワクチンはD型肝炎感染の予防にもつながります。残念ながらC型肝炎には予防ワクチンはありません。


感染を減らすためにできること

薬物注射に伴う感染を防ぐには「ハームリダクション(害を減らす取り組み)」が重要です。

  • 針を共有しない

  • きれいな注射器を提供する「シリンジサービスプログラム」を利用する

  • 性行為の際にはコンドームを使う

これらの取り組みは、感染を大幅に減らす効果があると報告されています。


まとめ

注射薬の使用は、HIVやC型肝炎、B型肝炎など、命に関わるウイルス感染の大きな原因となっています。これらの病気には治療薬や予防接種があるものもありますが、最も大切なのは「感染しないようにすること」です。もし注射薬の使用経験がある方は、検査やワクチン接種を受けて、自分や周囲の人を守ることが大切です。


📖 出典

Borrelli C. Viral Infections Associated With Injection Drug Use. JAMA. Published online September 10, 2025. doi:10.1001/jama.2025.14271


👨‍⚕️ 眼科医清澤のコメント

米国医学界雑誌の市民向けのメッセージです。この記事は一見、眼科医療とは直接関係がないように思えます。しかし、感染症による全身の健康悪化は視力にも影響します。例えばHIVや肝炎ウイルス感染者では、網膜の出血や炎症が生じることがあります。地域の健康を守るという意味で、眼科医としてもこうした情報を共有する意義があると感じました。日本でもこうした例はあるのだと思います。

注記;

Q; きれいな注射器を提供する「シリンジサービスプログラム」は日本にもありますか・
A;日本における現状
  1. 学術的・政策的な議論は存在する

    • 日本では「ハームリダクション(害の低減)」という考え方自体や、「注射器交換プログラム(Needle and Syringe Exchange Program: NEP)」の有効性について、医学・公衆衛生の分野で議論されてきています。たとえば、HIV/HCV感染予防の一手段として注射器交換プログラムを紹介している論文があります。 mdm.or.jp+3J-STAGE+3精神神経学雑誌+3

    • また、「日本アルコール・アディクション医学会」などの学会でも、ハームリダクションの理念・政策の導入可能性についてのシンポジウムや委員会が設けられています。 精神神経学雑誌+1

  2. 実際に制度としての実施例はほぼない/限定的

    • 「注射器交換を制度的に法律で定めて行うプログラム(公式・連続的・規模のあるもの)」の報告は、日本の公的機関・地方自治体で確認されているものはほとんど見当たりません。学術論文では、注射器交換プログラムを日本で「試みられてはいない」「実践されていない」という記述があります。 精神神経学雑誌+1

    • 民間、非営利団体や支援者レベルで「清潔な注射器/針の配布」や「廃棄済注射器の回収の必要性を訴える」などの活動は議論されていたり、啓発段階にあったりします。が、それが公的制度として機能している例は確認できていません。 朝日新聞GLOBE++2社会福祉法人SHIP+2

  3. 法制度・社会の障壁

    • 日本では薬物使用(特に違法薬物)の所持・使用に対する法律規制や、社会的・文化的なスティグマが強いため、薬物使用者への支援プログラムの中で「注射器を提供して使用を支える/黙認する」ようなものは、なかなか導入が難しいという指摘があります。 認定NPO法人 ぷれいす東京+2精神神経学雑誌+2

    • また、注射器および医療器具の取扱いに関する法的な医療品・医療器械等の規制も関与する可能性があります。


結論

「シリンジサービスプログラム」のようなモデルは、日本ではまだ正式な形で導入されていないと言える状況です。学界・支援団体での議論や理念としての理解は進んでいるものの、実際に清潔な注射器を無料・継続的に提供して、使用済み注射器を回収・交換するような公的プログラムは確認されていません。

メルマガ登録
 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

最近の記事

  1. セマグルチドと眼の合併症 ― 最新研究からわかったこと

  2. 注射薬使用に関連するウイルス感染症について;米国の一般向け注意喚起記事紹介

  3. 本日、目黒区・世田谷区を襲ったゲリラ豪雨 ― 医療現場から見た影響と市民への注意