注射薬使用に関連するウイルス感染症について
近年、世界中で約1,480万人が薬物を(闇で)注射しているといわれています。注射薬の使用は、薬そのものの害だけでなく、細菌や真菌による感染、さらにウイルス感染の大きなリスクを伴います。特に「針の使い回し」など非衛生的な行為は、ウイルスの広がりを助長します。今回は、JAMA(米国医学会誌)がまとめた「注射薬と関連するウイルス感染症」について、一般の方向けにわかりやすくご紹介します。
主なウイルス感染症とその特徴
◎ HIV(エイズウイルス)
米国では毎年約2,300人が、注射薬の使用によって新たにHIVに感染しています。抗レトロウイルス薬による治療を受けると、合併症を減らし、他人への感染を防ぐことができます。今や治療薬の進歩により「感染しても長く健康に生きられる時代」になっていますが、予防が最も重要です。
◎ C型肝炎ウイルス
米国の急性C型肝炎の約半数は注射薬に関連します。C型肝炎は70%が慢性化し、肝硬変や肝がんにつながることがあります。しかし、8〜12週間の抗ウイルス薬で95%が治癒できる時代になりました。
◎ B型肝炎ウイルス
急性B型肝炎の約25%は注射薬に関連しています。そのうち2〜6%が慢性化し、肝硬変や肝がんに進行する可能性があります。治療薬はありますが、生涯服用が必要になる場合もあります。
◎ D型肝炎ウイルス
このウイルスはB型肝炎にかかっている人だけが感染します。B型肝炎との「二重感染」は病気の進行を早め、肝臓がんや死亡リスクを高めます。治療薬はありますが、D型肝炎単独のワクチンはなく、B型肝炎ワクチンで間接的に予防します。
◎ A型肝炎ウイルス
注射薬での感染はまれですが、米国のデータでは患者の約3分の1が注射薬使用の経験を持っています。ほとんどは自然に治りますが、約1%は重い肝不全を起こします。現在、有効な治療薬はなく、ワクチンでの予防が大切です。
検査と予防接種のすすめ
CDC(米国疾病対策センター)は、薬物を注射する人に対し以下を推奨しています。
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HIV検査を少なくとも年1回
パートナーと一緒に注射をする人は特に重要です。陰性であればHIV予防薬(PrEP)やカウンセリングも利用可能です。 -
C型肝炎・B型肝炎の抗体検査
もしB型肝炎が陽性なら、D型肝炎の検査も追加されます。 -
予防接種
A型肝炎・B型肝炎のワクチンは、感染を防ぐ有効な手段です。B型肝炎ワクチンはD型肝炎感染の予防にもつながります。残念ながらC型肝炎には予防ワクチンはありません。
感染を減らすためにできること
薬物注射に伴う感染を防ぐには「ハームリダクション(害を減らす取り組み)」が重要です。
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針を共有しない
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きれいな注射器を提供する「シリンジサービスプログラム」を利用する
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性行為の際にはコンドームを使う
これらの取り組みは、感染を大幅に減らす効果があると報告されています。
まとめ
注射薬の使用は、HIVやC型肝炎、B型肝炎など、命に関わるウイルス感染の大きな原因となっています。これらの病気には治療薬や予防接種があるものもありますが、最も大切なのは「感染しないようにすること」です。もし注射薬の使用経験がある方は、検査やワクチン接種を受けて、自分や周囲の人を守ることが大切です。
📖 出典
Borrelli C. Viral Infections Associated With Injection Drug Use. JAMA. Published online September 10, 2025. doi:10.1001/jama.2025.14271
👨⚕️ 眼科医清澤のコメント
米国医学界雑誌の市民向けのメッセージです。この記事は一見、眼科医療とは直接関係がないように思えます。しかし、感染症による全身の健康悪化は視力にも影響します。例えばHIVや肝炎ウイルス感染者では、網膜の出血や炎症が生じることがあります。地域の健康を守るという意味で、眼科医としてもこうした情報を共有する意義があると感じました。日本でもこうした例はあるのだと思います。
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