病的近視の発症予防につながる前向きコホート研究
上田瑛美 九州大学大学院医学研究院眼科学分野
序文及び要旨:
地域住民における近視性黄斑症の時代的有病率の推移を検討し、近視性黄斑症の粗有病率は2005年1.6%,2012年3.0%、2017年5,9%と時代とともに有意に増加していることを報告した。さらに、久山町研究の断面調査の成績を用いて、脈絡膜厚と近視性黄斑症の関連を検討したところ、脈絡膜の非薄化に伴い近視性黄症を有するオッズ比は有意に上昇し、脈絡膜厚の非薄と眼軸長の延長により近視性黄斑症を有するリスクはさらに増加することを明らかにした。
はじめに
病的近視は、先進諸国において失明原因の上位を占める疾患である。近視性眼底病変には視力予後の異なるものが混在しており、なかでも黄斑部に生じる近視性脈絡膜新生血管および痕形成による近視性黄斑症は、中心視力を著しく障害し視力予後不良である。これまでの定義は国際的な統一見解がなく、投学的なデータを比較することが困難であった。しかし、2015年に国際メタ解析スタディ(the Meta-Analysis for Pathologic Myopia study:META-PM)により近視性黄斑症の新しい国際基準が提唱された。以下にポイントを採録する。
- 近視及び超眼軸の有病率の時代的推移
◎40歳以上の地域住民を対象に疫学調査をおこない。2005年から2017年にかけての近視の有病率は37.7%から 45.8%に有意に増加傾向にあった
◎眼軸長 26.5mm以上を有するものの頻度は、2005年から2017年にかけて、3.6%から6.0%に有意に増加したことを明らかにした
- 近視性黄斑症の有病率の時代的推移
病変なし(Category0)、豹紋状眼底変化のみ(Category1)、瀰漫性網脈絡膜萎縮(Category2)、限局性網脈絡膜萎縮(Category3)、黄斑萎縮(Category4)。近視性黄斑症は「Category2以上の萎縮性変化を眼底に有する、もしくは後部ぶどう腫を有する」眼であると定義された。
- 近視性黄斑症の有病率は6%から 3.6%に有意に増加傾向にあった
- 近視性黄斑症の病型別ではびまん性網脈絡膜縮と限局性網脈絡縮の有病率の有意な上昇
を認めた
近視性黄斑症の発症率と危険因子
- 近視性黄斑症の5年発症率は1%であり、他のアジア圏の既存報告(0.08~0.12%)とくらべ、顕著に高率であった
- 近視性黄斑症の発症には加齢と眼軸長がそれぞれ独立して影響することが明らかとなった
- 脈絡膜厚と近視性黄斑症の関連
- 地域住民において、脈絡膜の非薄に伴い近視性黄斑症を有するリスクが上昇した。その結果は眼長を調整しても変わらなかった
- 近視性黄斑症の病態において眼軸長伸長とは独立して、脈絡膜厚の非薄が関与することが示唆された
(Retina Medicine vol.13 No.1 2024年春号から採録 p38-43)
コメント