全身病と眼

[No.2891] 若者の「オーバードーズ」に関する松本俊彦氏による論説が出ています

松本俊彦氏による「オーバードーズ」の論説(日本医師会雑誌153巻6号、653-656)は、特に日本の若者、特に10代の市販薬乱用とその自殺リスクに焦点を当てています。

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1998年に自殺者数が急増した日本では、2006年に自殺対策基本法が成立し、国を挙げた自殺対策が展開されてきました。その結果、全体の自殺者数は減少傾向に転じたものの、10代に限っては横這いまたは増加傾向が続いています。特に2020年のコロナ禍では高校生女子の自殺者数が急増し、深刻な事態となっています。その背景にある原因は明確ではありませんが、近年、子どもたちの間で市販薬の過剰摂取(オーバードーズ、OD)が増加していることが指摘されています。

市販薬の乱用は、特にメンタルヘルスに問題を抱える若者の間で増加しており、乱用される薬物は主に鎮咳薬や感冒薬です。これらには意欲を高めたり、不安を和らげる成分が含まれており、これらを過剰に摂取することで一時的に苦痛を緩和しようとする若者が多いとされていますオーバードーズODの背景には、親や教師に相談せず、自分一人で問題に対処しようとする孤独な対処法が存在しています。特に「良い子」とされる女性が多く、彼女たちは自傷や摂食障害も抱える傾向があります。

オーバードーズODと自傷行為には多くの共通点がある一方で、オーバードーズODは体内での損傷が視覚的に確認できないため、害が蓄積してから気づくことが多く、制御が難しい点で自傷とは異なります。多くの若者がオーバードーズODの危険性を理解しているものの、「万一死んでも構わない」といった思いから行為を繰り返しています

松本氏は、オーバードーズODに対応する際、まずは正直に話せる関係性を保つことが重要であると強調しています。子どもが自傷やオーバードーズODをやめられないと訴える場合、否定的な態度ではなく、害を減らす方法を提案し、精神科治療に繋げる必要があります。また、これらの行為の背景には、過去のトラウマや家庭問題が存在することが多く、その「見えない傷」にも注意を払うべきだとしています。

オーバードーズODを繰り返す子どもに対しては、管理的な態度や過干渉を避け、子どもが正直に自分の気持ちを話せるような環境を作ることが重要です。オーバードーズODをすぐにやめさせるのではなく、オーバードーズOD日記をつけさせ、小さな目標を立てて徐々に行為を減らす方向でサポートします。

最後に、松本氏は、オーバードーズODを繰り返す子どもたちが最も「自傷的」な行動は、誰にも相談せずに苦しみを抱え込むことであると述べています。したがって、子どもたちが助けを求めることができるような支援が必要であり、これが最も重要な自殺予防の手段であると結論付けています。

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