全身病と眼

[No.1259] 石渡 喜一 先生に聞く 半導体PET診断と核医学:記事紹介

本日、メディコンパスという組織が2022年3月に取材した:South Tohoku Drug Discovery and Cyclotron Research Centerのパンフレットをご送付いただきました。その中に、「南東北創薬・サイクロトロン研究センター 創薬研究所 所長 石渡 喜一 先生に聞く 半導体PET診断と核医学」という記事が出ています。
このところ一年ほどお目にかかってはいませんが、石渡喜一先生は東北大学、東京医科歯科大学と長いこと私自身とまた、私の後輩たちが研究指導でお世話になった先生です。10人もの医師がその研究で学位を取得されました。この記事から、最近のPET核医学、ことに検査薬を創薬するという部門の動向を読み取ってみましょう。
私が核医学に関与し始めた1980年当時には、最新の学問分野としては認識されつつありましたが、まだPET核医学には保険適用が認められてはいませんでした。そのため、放射線医学、核医学領域では、まだその分野は広くはその価値が認められてはいませんでした。
現在、腫瘍診断とアルツハイマー病の診断におけるPET研究は最近の研究領域では大きな意味を持つようになっています。この文章には半導体PET-CTとか、ホウ素中性子捕捉療法の適応診断と言った耳慣れない単語も出てきます。
   ーーーー記事抄出で採録ーーーー

南東北創薬・サイクロトロン研究センター 創薬研究所
新たなPET診断に欠かせない薬剤製造

南東北病院グループ 南東北創薬・サイクロトロン研究センター 創薬研究所 所長
理学博士/公立学校法人福島県立医科大学生体機能イメージング講座 特任教授
石渡 喜一 先生
Kiichi Ishiwata, Ph.D
 

 専門分野 
放射性医薬品科学/PET薬剤開発/PET薬剤科学研究
 Profileプロフィール 
1981年 東北大学サイクロトロンラジオアイソトープセンター 助手、1991年 東北大学サイクロトロンラジオアイソトープセンター 助教授
1991年 (財)東京都老人総合研究所 ポジトロン医学研究部門 主任研究員

2009年 (地独)東京都健康長寿医療センター(改組)研究所 神経画像研究チーム チームリーダー(研究部長)
2015年 公立学校法人福島県立医科大学 生体機能イメージング講座 教授
2015年 一般財団法人脳神経疾患研究所 附属 南東北創薬・サイクロトロン研究センター 所長

南東北創薬・サイクロトロン研究センターは、さまざまなPET検査を行うための薬剤を製造できる国内有数の施設です。PET検査のための薬剤とは、がんやアルツハイマー病をPETで画像化して診断するために欠かせない検査用の〝薬〟のこと。PET検査の新しい可能性を切り拓くことを目的として2019年6月に開院しました。
同研究センター創薬研究所所長として薬剤の製造や開発研究を担う石渡喜一先生に、創薬研究所の取り組みについてうかがいました。

南東北創薬・サイクロトロン研究センターの薬剤研究

南東北創薬・サイクロトロン研究センターは、さまざまなPETイメージング検査のための核医学用医薬品を製造できる研究施設です。
核医学とは、特定の臓器や組織に集まりやすい性質を持った弱い放射線を出す検査薬を体内に投与し、それが体のなかでどのように集積するかを専用のカメラで撮像して病気の診断や治療に役立てる医学分野のことです。
核医学の検査の中で、非常に放射線の寿命の短いPET薬剤を使用するのがPET検査で、よく知られているものに「FDG」という薬剤を使う「PETがん検査」があります。通常の「PETがんドック」などでがんの早期発見に役立てられているのがこのPET検査であり、皆さんも受診されたことがあるのではないでしょうか。
研究センター内の創薬研究所では、FDG以外の新たなPET薬剤研究に取り組み、国内数施設でしか製造されていない研究用薬剤も製造可能です。これらの薬剤を検知して体内の様子を画像化する半導体PET-CTはきわめて撮像能力の高い最新のもので、臨床応用への研究に貢献しています。

当研究センターでは、現在、がんとアルツハイマー病を2本の柱として研究を行っています。

新たなPET診断薬の臨床応用に向けて

— PET検査の薬剤にはいろいろなものがあるのでしょうか。

福島県郡山市の総合南東北病院では、院内で製造したFDGという薬剤を用いて、年間8千人くらいのPET検査を行ってきました。がんの発見や診断に役立つFDGは保険適用の薬剤ですが、PETの薬剤には、ほかにも脳腫瘍や特殊ながん、アルツハイマー病の診断に寄与するような薬剤があります。
それらはまだ保険診療としては認められていなくても、病院が病気の診断や治療を行う上でとても有益なものであり、世界中の研究機関で製造され、研究に使われています。
私たちは、こうしたさまざまなPET薬剤の製造や研究を通して、有望な薬剤の保険適用に向けた臨床研究や治験にも積極的に参加し、研究成果を社会に還元していきたいと考えています。

南東北創薬・サイクロトロン研究センターの現在の取り組み

BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)の効果を予測するようなPET薬剤も作られているそうですね。

南東北病院グループは、陽子線治療やBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)などの先進的ながん放射線治療で知られていますが、実はこうした治療を行う上でも、PET検査は大きな役割を果たしています。
たとえば、当研究センターの重要な設立目的のひとつにも掲げられているのですが、南東北BNCT研究センターがBNCT(ホウ素中性子捕捉療法)という新たながん治療を世界に先駆けて開始するにあたって、その適応診断や効果の予測に役立つPET検査薬(FBPA)を製造し提供するという役割を当センターは担っています。このPET薬剤は東北大学にいた頃に私が開発を担当しました。

— アルツハイマー病の超早期診断に役立つPET薬剤も製造されているのでしょうか。

アルツハイマー病については、原因物質として考えられる脳内の特殊なタンパクをPETで画像化するための検査薬を製造しています。アミロイドβタンパクとタウタンパクを捉える薬剤です。
こうしたPET検査などをもとにして、南東北創薬・サイクロトロン研究センターの松田博史所長によるアルツハイマー病の超早期診断実現に向けた脳機能イメージング研究が進められています。

— がんに関する研究についても簡単に教えていただけますか。

がんに関して注目されるのは、低酸素イメージングPET薬剤です。低酸素状態のがん細胞は放射線に抵抗性があり、放射線治療が効きにくいことが分かっています。そうした(低酸素)部位をPET検査で見つけ、より効果的な放射線治療を工夫することで、がんの再発を防ぐ新たな治療の道が開かれます。

また、前立腺がんの内用療法と呼ばれる核医学治療についての研究も進めています。核医学は診断の学問でしたが、これは診断と治療の両方を実現します。核医学の新しい潮流として注目してください。

南東北創薬・サイクロトロン研究所センター

■ 福島県郡山市八山田七丁目61番(総合南東北病院 管理棟西側、南東北医療クリニック南側)
■ 地上2階・地下1階

〇 南東北創薬・サイクロトロン研究所センターは、PET検査の新しい可能性を切り拓くことを目的として2019年6月に開院しました。

〇 BNCT(ホウ素中性子捕捉療法)の適応診断や効果予測のためのFBPA-PET、認知症の超早期診断につながるPET研究などを行っています。

〇 診断・治療に直結する新しいPET薬剤の開発と基礎および臨床研究を、先行している南東北医療クリニックPETセンターと連携して進めています。南東北病院で臨床使用が承認された薬剤は以下のとおり。
18F-FDG, 11C-methionine, 11C-choline, 11C-PiB, 18F-FBPA, 11C-flumazenil, 11C-raclopride, 11C-4DST, 11C-preladenant, 18F-NaF, 18F-FRP-170, 18F-FMISO, 15O-Oガス,18F-NAV4694, 18F-MK6240

〇 医用サイクロトロン、ホットセル7基、PET薬剤合成装置3台、無菌アイソレータ、自動品質管理装置、半導体PET/CT、動物用PET/MRIを有し、GMP*下で薬剤合成の運用が可能。
* GMPとは、「Good Manufacturing Practice」の略。「医薬品の製造管理及び品質管理の基準」のことであり、厳格な基準をクリアすることで許可・承認されます。)

半導体PET/CTは112リングの検出器を有し、体軸方向のFOVは300mmと長く、高感度(16cps/kBq)かつ高解像度(2.9mm FWHM)で撮像できます。また、外部装置を用いることなく頭部の動きや呼吸をモニターすることにより、アーチファクト*の低減が可能。従来機種よりも小病変の検出が短時間で可能です。
* ノイズなど)

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