先天性滑車神経麻痺(先天性第4脳神経麻痺)について
質問:
50歳の患者が2ヶ月前から垂直性複視を訴え始め、特に右を向いたときに強く感じています。血液検査は全て正常で、MRIも異常がありませんでした。先天性の第四神経麻痺が50歳になって表れた可能性を疑っています。先天性第四神経麻痺の症状と特徴的な所見について教えてください。また、考えられる治療法についても説明してください。
回答:
先天性第四神経麻痺(CN IV麻痺)は、多くの場合、長い間無症状であり、年を取ってから補償機能の破綻により初めて症状が現れることがあります。この50歳の患者のように、右を向いたときに垂直性複視が現れる場合は、長期間存在していた可能性がある先天的な問題が、現在補償が崩れて症状が出ている可能性があります。
先天性第四神経麻痺の症状と特徴的な所見:
- 垂直性複視: 先天性第四神経麻痺の主な症状は、垂直性または斜に傾いた複視です。特に下向きの視線や、患者が特定の方向(例:右方向)を向いたときに症状が顕著になります。
- 頭位異常(首の傾き): 先天性の場合、補償として頭を健側に傾けることが多いです。この傾きにより、複視が最小限に抑えられ、目のずれが目立たなくなります。若い時からの顔写真を持参させて比べてみると良いでしょう。
- 顔の非対称: 長期間の頭の傾きにより、顔の非対称が見られることがあります。患者は長年にわたって姿勢で補償していた可能性があります。
- 眼位のずれ: 診察では、患側の眼が上方偏位(ハイパートロピア)を示すことがあり、視線を反対側に向けたときや、患側に頭を傾けたときに悪化する傾向があります。ヘスチャートは最も原因麻痺筋を判別しやすい検査です。
- ビエルショウスキー頭位傾斜試験: この試験では、頭を患側に傾けたときに垂直偏位(ハイパートロピア)が増加します。これにより、第四神経麻痺が確認できます。
診断:
先天性第四神経麻痺の診断には、以下の点が参考になります:
- 長期の症状: 患者が最近症状を自覚し始めた場合でも、幼少期からの微妙な複視や頭位異常について尋ねることで、長期間続いていた問題が判明することがあります。
- プリズムカバーテスト: ハイパートロピアの存在と、その視線方向や頭位による変化を確認することができます。Hess チャートも判定と斜視程度の記録に有効です。
治療法:
- プリズム眼鏡: 軽度の複視や手術が適さない場合、プリズムレンズを使用した眼鏡で視軸を調整し、複視を軽減できます。
- 斜視手術: プリズムによる矯正が不十分な場合や、患者がより永続的な解決策を望む場合、手術(上斜筋のタックまたは下斜筋の弱化など)が有効です。手術方法の選択は、ハイパートロピアの程度や他の外眼筋の過活動に基づいて行われます。この手術ができる施設は多くないので、主治医に病院を紹介してもらう必要があります。
- 経過観察: 複視が軽度で患者が耐えられる場合は、保存的な管理として経過観察が適切な場合もあります。
先天性第四神経麻痺は、適切に診断されれば、プリズム矯正や手術による治療で良好な結果が期待できることが多いです。
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