教育セミナー2「日本医療のイノベーション革命」(日本眼科学会)に登壇する3名の講演について、一般向けに詳しく解説した要旨を以下にまとめます。
① 堅田 侑作 先生(慶應義塾大学/株式会社レストアビジョン)
演題:視覚再生創薬への挑戦:アカデミア発スタートアップの実践例
堅田先生は、遺伝性の失明疾患である網膜色素変性症に対する革新的な治療法として、「オプトジェネティクス(光遺伝学)」を用いた視覚再生技術を紹介します。この技術では、光に反応するタンパク質を遺伝子治療で網膜に導入することで、視覚を再構築しようとするものです。大手製薬企業が手を出しにくい高難度領域において、大学発のスタートアップ企業「レストアビジョン」が果敢に挑んでいます。講演では、研究から実用化への過程、資金調達や規制対応など、実際の開発プロセスについても具体的に紹介され、医療におけるベンチャーの可能性を示す内容です。
② 米満 吉和 先生(九州大学 薬学研究院)
演題:固形がんを破壊可能なNK細胞様製剤GAIA-102の臨床開発
米満先生は、従来のがん治療では効果が出にくい「固形がん」に対する新しい免疫細胞治療薬「GAIA-102」の開発について発表します。この細胞は、自然免疫の一種であるNK細胞に似た性質を持ち、がんに集まり強力に攻撃する特殊な性質を持っています。2022年からは肺がんや腹膜播種、小児の固形腫瘍を対象とした臨床試験も始まり、その効果の兆候として「腫瘍の偽増悪(pseudoprogression)」がCT画像で観察されるなど注目されています。日本発の細胞治療として、特許も複数国で取得されており、医療の現場に新しい選択肢をもたらす可能性を秘めています。
③ 坪田 一男 先生(株式会社坪田ラボ)
演題:あたらしい医師の役割
坪田先生は、医師の役割が「診療・教育・研究」だけでなく、医療の未来を創る「産業の担い手」へと広がる必要性を提唱しました。特に日本では、医薬品や医療機器の多くを海外に依存しており、経済的にも技術的にも課題があります。先生は、専門分野だけでなく多様な知識や経験を持つ「T型人間」の医師が、イノベーションの原動力になると説明。ご自身が創設した(株)坪田ラボを含め、慶應眼科からは4つのスタートアップが誕生し、すでに世界市場に挑戦しています。医療の未来を変えるために、医師自身が変わらなければならないというメッセージが込められています。
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