小児の眼科疾患

[No.3517] 水平方向・中等度眼振を持つ患者さんへの説明です

水平方向・中等度眼振を持つ患者さんの説明を「どの遺伝子が関係している場合にどのような遺伝の仕方をするか」も含めて、患者さんへの説明用にわかりやすく、かつ医学的な正確さも保った形でまとめ直しました。


水平方向・中等度眼振を持つ患者さんへ

~お子さんへの遺伝の可能性についてのご説明~

■ 1. この眼振の背景について

  • 水平に中等度の眼振がみられる場合、先天性眼振(Infantile Nystagmus, IN)の一型である可能性が高いです。

  • 先天性眼振には、遺伝的要因が関与していることが少なくありません。


■ 2. 関与する代表的な遺伝子と遺伝形式

現在、先天性眼振に関連するとされる主な遺伝子には以下があります:

遺伝子 遺伝形式 特徴
FRMD7遺伝子 X連鎖劣性遺伝 男性に発症しやすい。女性は無症状か軽症。
PAX6遺伝子(まれ) 常染色体優性遺伝 眼振以外に虹彩欠損などを伴う場合あり。
その他(未特定) 常染色体優性遺伝や孤発例 先祖に眼振がない場合でも新たな変異で発症することがある。

■ 3. 子供への遺伝の可能性

仮にこの患者さんが

FRMD7遺伝子異常を持っていた場合(最も一般的なパターンですが):

  • 男児に約50%の確率で眼振が遺伝する。(清澤注:日本国内では遺伝子検査は通常行われていませんが、確かに私が見た先天眼振の方の多くは男性でした。)

  • 女児に遺伝しても、軽症か無症状の場合が多い

もし仮に

常染色体優性遺伝(PAX6など:PAX6遺伝子異常のある患者さんは無虹彩など目の奇形を伴う事が多いと思います)だった場合:

  • 男児・女児どちらにも約50%の確率で眼振を伴う病気が遺伝する

ただし、家系に眼振の人が他にいない場合には、孤発例(偶発的な遺伝子変異)の可能性もあり、

この場合の遺伝リスクはかなり低くなると考えられます。


■ 4. 実際のリスク評価と注意点

  • 遺伝する可能性はあるが、必ず遺伝するわけではない

  • 仮に遺伝した場合も、揺れの程度や視力への影響には個人差がある

  • 現代の医療では、軽度の眼振なら生活に大きな支障がないことが多い


■ 5. 追加でできること

  • 家族歴の聞き取り(家系に似た症状の方がいないか:此の聴聞を加えておくことは有効と思われます。)

  • 必要に応じて遺伝カウンセリングのご案内

  • ご希望に応じて、遺伝子検査(FRMD7検査)も検討可能

     ※ただし、検査には費用がかかること、また検査してもすべてが明らかになるとは限らないことも説明が必要です。(今まで、私の担当患者さんでこの検査を行った患者さんはいません。)


【まとめ(患者さんへの最終説明例)】

「この眼振は、生まれつきの体質に関連している可能性があり、一定の確率でお子さんに遺伝することも考えられます。特に、男の子にやや多く現れる傾向もあります。ただし、すべてのケースで遺伝するわけではなく、また、仮に眼振があっても日常生活に支障が少ない方も多いです。

さらに詳しく知りたい場合は、遺伝カウンセリングや必要に応じた遺伝子検査もご紹介できますので、気軽にご相談ください。」

◎ 昨年の解答よりも大分深まった説明ができていると思われます;⇒先天眼振 前回の説明

先天眼振に関連する本人及び親への説明を考えてみました。

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