子供の近視の進行抑制に高まる期待…アトロピン点眼薬「リジュセアミニ」が登場
(この記事は井上記者のインタビューを受けた私のお話した内容も含んだ記事になっています。)
日本初の近視の進行抑制薬「リジュセアミニ点眼液0.025%」(参天製薬・有効成分アトロピン)が4月21日から発売された。近視は病気だが、コンタクトレンズやメガネを自費で購入して矯正するのが一般的。そのため公的保険の適用とならず、私費診療扱いとなったのは残念だが、今後は「子供の近視は治療手段がない」というあきらめから、治療に取り組もうとする意識が高まるに違いない。どんな薬なのか? 「自由が丘清澤眼科」(東京・目黒区)の清澤源弘院長に聞いた。
日本の子供の視力低下は深刻だ。文部科学省の2024年度の調査によると、裸眼視力1.0未満の割合は小学生で36.84%、中学生で60.61%、高校生では71.06%と高い水準にある。
近視は眼球の奥行き(眼軸)が楕円形にのびることでピントが合わなくなり、遠くが見えにくくなる状態を指す。遺伝的要因と環境的要因があり、近年は屋外活動の減少や読書、勉強、スマホやパソコン、タブレットなどの電子機器を手元で見る時間が長くなったことが近視増加の主因とされている。
「一度のびた眼軸は元に戻すことができません。近視は網膜剥離や緑内障を招くだけでなく、強度近視になると近視性黄斑変性など失明につながる目の病気を誘発します」
実際、強度近視は失明原因の上位であることが知られている。
近視は学童期に発症し、15~16歳まで進行する。そのため、この時期での進行抑制が重要とされる。海外では低濃度アトロピンをはじめ、さまざまな方法が検討されている。しかし、日本には眼鏡による矯正以外に近視抑制の効能・効果をうたった医薬品および医療機器が存在しなかった。
「発売された点眼薬は軽度から中等度の近視の子供が対象。使い方は1日1回、就寝前に1滴さすだけ。簡単です」
主な副作用として羞明が報告されている。なお、低出生体重児、新生児、乳児、5歳未満の幼児を対象の臨床試験はしていない。
もともとこの薬の成分であるアトロピンは、瞳孔を開いたり、ピントを調節するための毛様体筋を休める働きがあり、小児の屈折検査などに使用されてきた。眼科医の間では、強い近視抑制効果があることが知られていたが、濃度が高いと目の調節麻痺により手元が見えなくなる副作用があり、日常的には使用が難しかった。
「そこで低濃度のアトロピンがシンガポールで研究され、『マイオピン』の名で実用化されました。日本でも一部の眼科医が個人輸入の形で使用しています。いわば効能と安全性で実績のある薬です」
しかも、この新しい薬は使い捨てタイプであり、防腐剤が含まれていない。点眼薬に使われる防腐剤は短期使用であれば問題ないが、何年にもわたる長期使用では、眼表面に影響を与える可能性がある。
■オルソケラトロジーとの併用も
その点、この薬はより安全だ。
「マイオピン開発の前に、シンガポールの6~12歳を対象にアトロピン濃度0.5%、0.1%、0.01%を用いて近視進行抑制効果と副作用を調べる治験が行われました。濃度0.01%でも効果があり、副作用も少ないことが確認され、最初は濃度0.01%のものがマイオピンとして売り出されました。その後、濃度0.025%の点眼液が追加発売されました。今回の新しい薬の濃度も0.025%です」
現在、近視進行抑制効果が期待できるものとして、1日2時間以上の屋外活動や、就寝時に専用のコンタクトレンズを装着する「オルソケラトロジー治療」が挙げられる。また、2014年には中国で650ナノメートルの光が過剰な眼軸を抑制するとの報告があり、赤や紫の光を用いた治療も注目されている。
「今後は日本国内でも小児の近視進行抑制の機運が盛り上がり、裸眼視力の向上が期待されます」
コメント