遺伝子と子どもの虐待リスク――精神疾患との深い関係
清澤のコメント:小児期の虐待(身体的・性的・心理的な暴力やネグレクト)が、将来の心の病に関係する可能性があると聞いたことがあるでしょうか。最新の研究では、こうした虐待のリスクが「遺伝子レベル」でも予測できる可能性が示されました。結果は、こどもの虐待リスクは、ADHDの遺伝的素因が強い、教育達成度の低さ、親の精神疾患、性差(女性)で高いという事だそうです。私は、小児虐待に限らず、心因性視力障害や眼瞼痙攣などのような精神心理的な要素や素因を含む患者さんにおいては、臨床心理カウンセリングを取り入れて症状の軽減を図るべく努力しています。
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2025年5月に発表されたデンマークの研究グループの論文では、「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」や「うつ病」など5つの精神疾患と、子どもの頃に受ける虐待との関係を、遺伝的な傾向(多遺伝子スコア:PGS)を使って大規模に調査しました。
研究対象となったのは、デンマークの10万人以上の子どもや若者たち。分析の結果、次のような重要な点がわかりました。
1. ADHDの遺伝的素因が強いと、虐待リスクが高い
ADHDの遺伝的傾向(PGS)が高い子どもほど、実際に虐待を受ける割合が高いことが分かりました。
たとえば、ADHDのPGSが最も高いグループでは、5.6%の子どもが虐待を経験していました。これは、最も低いグループ(3.3%)の約1.7倍にあたります。
2. 教育達成度の低さもリスク
また、「教育達成度が低くなる遺伝的傾向」がある子どもも、虐待を受けやすい傾向がありました。これは親の学歴や家庭環境と関係があるかもしれません。
3. 親の精神疾患も重要な要因
精神疾患のある親のもとに育つ子どもは、虐待リスクが2倍以上に。ADHDなどの発達特性を持つ子どもを育てることは難しく、ストレスの高まりが影響している可能性があります。
4. 性差にも注目
ADHDの遺伝的素因を持つ女児は特にリスクが高く、男児の約2倍の確率で虐待を受けているという結果でした。
医学の視点からの意義
この研究は、「虐待は単に家庭環境だけでなく、子ども自身の特性や遺伝的素因とも関係している可能性がある」ことを示しています。
すなわち、心の病気になりやすい脆弱な子どもたちを、あらかじめ遺伝情報などから見つけ出し、早期に支援できる道が開けつつあるということです。
眼科の現場でも見逃せない視点
このような研究は、一見すると精神科に限定された話題に見えるかもしれません。しかし、私たち眼科医も、小児患者さんの背景や家庭環境をさりげなく配慮することが大切です。視力や眼の健康を通じて、子どもたちの心や生活に寄り添うことは、地域の医療者としての責務のひとつと感じています。
参考論文:
Nielsen TT et al. JAMA Psychiatry, May 9, 2025. DOI: 10.1001/jamapsychiatry.2025.0828
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