発達障害と経営者:特性を活かした成功者たちから学ぶ
近年、発達障害という言葉を耳にする機会が増えました。かつては「支援が必要な障害」として語られることが多かったこの概念も、現代では「特性」として捉え直されつつあります。特に注目すべきは、発達特性を抱えながらも、経営の世界で大きな成果を挙げた成功者たちの存在です。
2021年に行われた、ニトリ創業者・似鳥昭雄氏と、元ワイキューブ社長の安田佳生氏の対談(プレジデントオンライン)では、両者が自らの発達特性を率直に語り合い、その特性がむしろ経営者としての資質に深く関わっていたことが明かされました。
似鳥氏は、自分のADHD(注意欠如・多動症)の傾向を自覚しており、若い頃から「落ち着きがない」「話が飛ぶ」などと周囲に言われていたと語ります。しかし、そうした性質が逆に、「新しいことを思いつき、素早く動き、諦めずにやり続ける」力の源になったと自己分析しています。また、苦手な分野は素直に他者に任せ、組織で補い合う仕組みを早期に構築したことが、ニトリの発展につながったとも述べています。
一方の安田氏は、自らがアスペルガー症候群の傾向があると語り、人との距離感や暗黙のルールが理解しづらかったこと、組織運営でも苦しんだ時期があったことを打ち明けています。ただしその一方で、強いこだわりや独自の発想力が企業理念や商品設計に反映され、ワイキューブの急成長につながったと振り返ります。「自分の欠点を隠すのではなく、見せていく経営」が必要だと語る姿は、多くの経営者に示唆を与えるものでした。
こうした日本の成功例に加え、海外でも発達障害を公表しながら活躍する著名人は数多くいます。
たとえば、電気自動車テスラや宇宙事業スペースXを手がけるイーロン・マスク氏は、自らがアスペルガー症候群であることをテレビ番組で告白しました。彼の強烈な集中力、常識を疑う思考力、そして他者の視線に惑わされない独自性こそが、革新的な事業を次々に生み出す原動力になっていることは明らかです。
また、オリンピックで数多くの金メダルを獲得した競泳選手マイケル・フェルプス氏は、ADHDと診断された子ども時代を経て、自分のエネルギーを「水泳」に集中させることで、世界的な成果をあげました。彼は「発達障害があるからこそ、普通の人とは違う努力の方法を見つけられた」と語っています。
アスペルガー傾向を持ちながら世界的オーディション番組で一躍有名になった歌手スーザン・ボイル氏も、音楽に集中する力と表現力で多くの人の心を動かしています。
私は眼科医として、日常診療の中で視界に砂嵐上のものを見るというビジュアルスノウ症候群の人たちと接することがあります。彼らは、光や動きに敏感であったりします。周囲と違う行動が「問題」とされることもありますが、よく観察すれば、それは視覚的な情報処理の強さや、物事に対する鋭敏な感性の現れであるとも見ることができます。不思議なことにビジュアルスノウ症候群の患者さんが訴える眩しさや砂嵐状の視界は、アスペルガー症候群患者の見え方の記載と似たところがあります。
こうした特性を「障害」と決めつけるのではなく、「異なる見方を持つ力」として受け止められたとき、子どもたちの可能性は大きく広がります。それは医療現場でも、学校教育でも、そして社会全体においても同じです。
発達障害という言葉にはまだ偏見も残りますが、似鳥氏や安田氏、マスク氏らが示してくれるように、「違い」を活かす社会へと進むことは、今後の人材育成や企業経営の鍵になるのではないでしょうか。
違いを弱さではなく可能性として認めること。それこそが、今の私たちに最も求められている視点なのだと、成功者たちの姿から感じます。
参考記事:
似鳥昭雄 × 安田佳生 対談「発達障害は経営者の資質かもしれない」プレジデントオンライン(2021年11月17日)
https://president.jp/articles/-/51937
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