コンタクトレンズ・眼鏡処方

[No.3860] 視力と屈折異常の測定に潜む「ばらつき」について

視力と屈折異常の測定に潜む「ばらつき」について

―系統的レビューから見えた課題―

背景

私たちが日常的に行う視力検査や屈折異常(近視・遠視・乱視など)の測定は、眼科診療においてもっとも基本的で重要な検査です。これらの結果は、眼鏡やコンタクトレンズの度数決定はもちろん、病気の診断や治療方針、さらには運転免許や兵役資格など社会生活上の判断にも直結します。

従来、科学文献では「視力のばらつきは ±0.15 logMAR」「屈折異常のばらつきは ±0.5ジオプター(D)」という基準が臨床的に許容できる範囲とされてきました。しかし、これらの値に本当に科学的根拠があるのか、はっきりとした合意はありませんでした。

目的

オランダのユトレヒト大学を中心とする研究グループは、視力と屈折異常の測定にどの程度の変動性があるのかを明らかにするため、過去の研究をまとめて検討する「系統的レビュー」を行いました。その目的は、臨床現場や研究において妥当な基準を設定することにあります。

方法

研究は国際的なレビュー手順に従って行われ、あらかじめPROSPEROというデータベースに登録されました。

  • 対象:成人を対象とし、視力(VA)または屈折異常(RE)を直接比較して一致の程度(LoA)を報告した研究。

  • 検索:Medline、PubMed、Embase から文献を収集。

  • 質の評価:QUADAS-2という診断研究の質評価ツールでバイアス(偏り)の有無を判定。

  • エビデンスの強さ:GRADEという国際基準で評価。

結果

最終的に18件の研究が組み入れられました(視力12件、屈折異常6件)。

  • 高品質と評価できた研究はわずか1件。多くの研究には方法論的な弱点が残っていました。

  • 提案されてきた「許容範囲」(視力 ±0.15 logMAR、屈折 ±0.5D)を超えるばらつきが多くの研究で見られました。

  • 統合解析の結果、実際のばらつきの平均は

    • 視力:±0.20 logMAR(95%信頼区間 0.17–0.23)

    • 屈折異常:±0.70D(95%信頼区間 0.50–0.89)

      であると報告されました。

つまり、従来考えられていたよりも検査結果には大きな幅があることが分かりました。

考案

この結果は、私たちが日々の診療や研究で用いている「測定値」に思った以上のばらつきが存在することを示しています。例えば、ある日の視力が0.8で翌週0.6になったからといって、すぐに病気が進行したと判断できない可能性があるということです。

また、屈折度数も ±0.5D より大きな変動が生じるため、眼鏡処方や近視進行の評価などに注意が必要です。特に子どもや高齢者、視力が低い人ではさらに変動性が増すことが知られています。

このレビューの著者らは、現時点では「視力 ±0.20 logMAR、屈折 ±0.70D」を暫定的な基準フレームとして扱うべきと提案しています。ただし、エビデンスの確実性は「非常に低い」と評価されており、今後はより厳密で質の高い研究が必要です。


清澤院長のコメント

眼科での診療は、検査結果を基盤に進められます。しかし、その「数字」には想定以上の揺らぎがあることを忘れてはなりません。視力や度数が少し変わっただけで一喜一憂せず、経過をみて判断することの大切さが改めて浮き彫りになったといえるでしょう。屈折 ±0.70Dはともかく、この値をスネレン視力に置き変えて見ると、スネレン視力 0.8(logMAR 0.097)は、 0.8を中心とする ±0.20 logMAR の範囲で、logMAR下限:スネレン約1.2~1.3、logMAR上限:スネレン約0.5と大分おかしな値となります。


出典

Casper van der Zee, Marc B. Muijzer, Janneau L.J. Claessens, Robert P.L. Wisse.

Determinants of variability in visual acuity and refractive error measurements: a systematic review.

Ophthalmology, Vol.132, Issue 9, p1020–1032, September 2025.

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