白内障

[No.3911] 片側顔面けいれんと微小血管減圧術について

片側顔面けいれんと微小血管減圧術について

片側顔面けいれんは、中高年の方に比較的多くみられる病気です。片方の目の周囲から始まるけいれんが、次第に口の周囲や頬、首筋へと広がっていくことがあります。本人にとっては、人前で表情が勝手に動いてしまうことが大きな負担となり、日常生活や社会生活に影響を及ぼします。

まず第一の治療としては、ボツリヌス毒素(ボトックス)注射が広く行われています。少量の薬をけいれんしている筋肉に直接注射すると、その働きが一時的に弱まり、けいれんが数か月間抑えられます。効果が切れると再度注射が必要ですが、外来で短時間に行える点が大きな利点です。

一方で、ボトックス治療に十分な効果が得られない方や、長期的に注射を続けることに抵抗を感じる方もいらっしゃいます。そのような場合、微小血管減圧術(Microvascular DecompressionMVD、これはジャネッタ手術とも呼ばれます。)という外科手術が選択肢になります。

この手術は、顔面神経を圧迫している血管を神経から離し、その間にテフロンなどのクッション材を入れることで、神経への刺激をなくすものです。原因を取り除く治療であるため、成功すれば根治が期待でき、長期にわたりけいれんが再発しないことも少なくありません。報告では、7090%の患者さんで症状が大きく改善または消失するとされています。

ただし、MVDは開頭手術ですので、一定のリスクがあります。代表的なものは、手術操作に伴う聴力障害顔面神経麻痺で、まれに脳脊髄液漏、感染や小脳梗塞などの合併症が起こることもあります。手術のため数日から1週間程度の入院が必要で、体への負担も少なくはありません。

それでも、手術が成功した場合には、一生けいれんから解放される可能性がある点が大きな魅力です。特に若い患者さんで「将来ずっと注射を続けるのは避けたい」と考える方や、日常生活での不便が大きい方には選ばれることがあります。

まとめると、片側顔面けいれんに対する治療には

  • 外来で簡単に繰り返し行えるが効果が一時的なボトックス治療
  • 手術による根治が期待できるが、リスクも伴う微小血管減圧術
    の二つの柱があります。

患者さんごとに症状の程度や生活への影響、年齢、治療に対する希望は異なります。私たち医師は、それぞれの方法の長所と短所を丁寧に説明し、患者さん自身が納得して選べるようにサポートすることが大切だと考えています。

「長く注射を続けるのか、それとも一度の手術で根治を目指すのか」――これはどちらが正しいということではありません。患者さんの価値観や生活の状況に応じて、最も納得のいく治療を一緒に考えていきたいと思います。

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