甲状腺機能低下症について ― 最新のレビューから
甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンが足りなくなることで起こる病気です。世界的には0.3〜12%ほどの人にみられ、特に女性や高齢者に多いとされています。症状はゆっくり進むことが多いため、気づかれないまま放置されると、心不全や「粘液水腫性昏睡」という重い状態に進んでしまうこともあります。JAMA誌に2025年9月に発表されたレビュー(Chakerら)は、この病気の最新知見をまとめています。
原因として最も多いのは自己免疫による「橋本病」で、ヨウ素が十分に足りている地域では患者の約85%を占めます。そのほか、遺伝的な要素やヨウ素不足、首の手術や放射線治療、免疫に関わる薬やアミオダロンという薬の使用、さらには妊娠なども発症のきっかけになります。
症状は多様ですが、多くの人が訴えるのは強い疲れやだるさです(7割以上)。そのほか、体重の増加、記憶力や集中力の低下、月経不順などがみられます。糖尿病がある人では血糖コントロールが悪化し、心不全や不整脈など心臓への影響も出やすくなります。女性では排卵障害による不妊や流産のリスクが上がることも知られています。
診断は血液検査で行われます。甲状腺刺激ホルモン(TSH)が高く、遊離サイロキシン(T4)が低ければ「顕性甲状腺機能低下症」と診断されます。TSHだけが高い場合は「潜在性甲状腺機能低下症」と呼ばれます。無症状の人に一律で検査することは勧められていませんが、1型糖尿病などリスクの高い人ではチェックすることが推奨されています。
治療の基本は、足りなくなったホルモンを薬で補うことです。使われるのは「レボチロキシン」という合成ホルモンで、量は年齢や心臓の状態に合わせて調整します。薬を始めたら6〜8週間後に血液検査で効果を確認し、その後は年1回程度の定期チェックで維持していきます。薬が多すぎても少なすぎても心臓に負担をかけてしまうため、適切なコントロールが大切です。
このように甲状腺機能低下症は、疲労や体重増加といった日常的な不調から、不妊や心臓病まで幅広い影響を及ぼします。正しい診断と適切な治療によって生活の質を大きく改善できる病気です。
出典
Chaker L, Papaleontiou M. Hypothyroidism: A Review. JAMA. Published online September 3, 2025. doi:10.1001/jama.2025.13559
追記:甲状腺機能低下症と目の症状
甲状腺の病気というと「眼球が飛び出す」症状(甲状腺眼症)が有名ですが、これは主に甲状腺機能亢進症のときに見られるものです。甲状腺機能低下症でも目に関連した変化が起こることがあります。代表的なのはまぶたのむくみで、粘液水腫による腫れぼったい印象になります。また、眉毛の外側が抜け落ちる「Hertoghe徴候」、まぶたが下がって見える眼瞼下垂様の外観、涙の分泌が減ることでのドライアイ、さらに目のかすみや見えにくさを感じることもあります。これらの症状は非特異的ですが、甲状腺の異常を示すサインとして眼科でも注意が必要です。
コメント