全身病と眼

[No.3960] 新しい肥満治療薬の最前線 ― ホルモンを標的としたアプローチ;JAMA記事

新しい肥満治療薬の最前線 ― ホルモンを標的としたアプローチ

近年、肥満治療の分野では画期的な薬が次々と登場しています。従来の生活習慣改善や外科手術に加え、体内のホルモンシステムを直接調節する薬が開発され、体重減少効果と健康改善効果を同時に得られるようになってきました。

GLP-1とGIPを利用した薬

最も注目されているのが、腸管ホルモン「インクレチン」を利用した薬です。GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は食後に分泌され、インスリン分泌促進、胃の動きの抑制、食欲低下をもたらします。GIP(胃抑制ポリペプチド)は骨代謝やインスリン感受性の改善にも関与します。

これらを人工的に安定化した薬剤が セマグルチド(GLP-1受容体作動薬)チルゼパチド(GIP/GLP-1二重作動薬) です。セマグルチドは平均15%、チルゼパチドは平均21%もの体重減少をもたらし、糖尿病や脂質異常症、心血管・腎疾患リスクの低下も確認されています。

新しい候補薬

研究はさらに進んでおり、複数のホルモン受容体を同時に標的とする薬も試験中です。

  • グルカゴン作動薬:代謝を高め脂肪燃焼を促進。

  • アミリン類似薬:胃排出を遅らせ、食欲を抑える。既に糖尿病治療薬として認可されたものもあり、体重減少効果は6〜8%。

  • 三重作動薬(GLP-1/GIP/グルカゴン):最大24%の体重減少を示した報告があります。

  • 新しい抗体薬MariTide:月1回の投与で16%の体重減少が確認されています。興味深いことに、GIPを「刺激」しても「抑制」しても体重が減る現象が報告されており、その仕組みは今後の研究課題です。

経口薬への挑戦

注射だけでなく、内服型の薬も開発されています。経口セマグルチドは既に糖尿病薬として認可されており、高用量は肥満治療用に審査中です。新しい小分子型GLP-1作動薬「オルフォグリプロン」も36週で14%近い体重減少を示しました。

筋肉と脂肪を同時に調節する薬

従来の減量では筋肉量が落ちることが問題でした。そこで注目されているのが ミオスタチン/アクチビン経路阻害薬 です。筋肉の成長を抑える働きをブロックすることで、筋肉量を保ちながら脂肪だけを減らします。抗体薬ビマグルマブはセマグルチドとの併用で72週に22%もの体重減少を達成し、その9割が脂肪減少でした。

まとめ

セマグルチドとチルゼパチドはすでに肥満治療の新しい柱となりつつあります。今後は複数のホルモンを同時に調整する薬や、経口薬、筋肉量を維持しつつ脂肪を減らす薬など、さらに進化した治療法が登場する見込みです。肥満は単なる体重の問題ではなく、糖尿病、心臓病、肝臓病と深く結びつく病態です。こうした新しい薬は、多くの患者さんにとって健康寿命を延ばす強力な味方になるでしょう。


出典

Kushner RF, Jastreboff AM, Ryan DH. Current and Future Medications for Obesity Treatment. JAMA. Published online September 11, 2025. doi:10.1001/jama.2025.13665


院長清澤のコメント

眼科の診療でも、糖尿病や高血圧、脂肪肝など肥満に関連した病気を合併する患者さんは少なくありません。これらの新しい薬が広がれば、全身の健康だけでなく目の病気の予防にもつながる可能性があります。特に糖尿病網膜症や緑内障など、生活習慣病と関連する疾患を診ている立場からも注目しています。ただし、実際に使っていると体重減はよいのですが、筋の減少により歩行が遅くなったり、立ち上がりに苦労するような場面に遭遇します、そのあたりの兼ね合いには注意が必要と思われます。

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